& と et について

2004年のサイトの開設当初から、学名の著者引用で著者をつなぐ接続詞は Acervus epispartius (Berk. et Br.) Pfister といった具合に "et" を使ってきた。
根拠は当時有効だった「国際植物命名規約」(セントルイス規約、2000)の当該箇所 (Recommendation 46C) による。
セントルイス規約では次のように書かれている。(規約の引用は枠内で示す、以下同様。なお、英文はオンライン版による。)
46C.1. After a name published jointly by two authors, both authors should be cited, linked by the word "et" or by an ampersand (&).
Ex. 1. Didymopanax gleasonii Britton et Wilson (or Britton & Wilson).
例にもある通り "et" と "&" の二者択一で、どちらかが正しいというものではないが、選ぶなら前者が優先だろうとずっと思っていた。
その後、命名規約はウィーン規約、メルボルン規約と改訂され、メルボルン規約からは規約自体も「国際藻類・菌類・植物命名規約」となったが、この部分に変更はなかった。
2012年発行のメルボルン規約の同箇所を日本語版と並べて引用する。英文はセントルイス規約と同一である。
46C.1. After a name published jointly by two authors, both authors should be cited, linked by the word "et" or by an ampersand (&).
46C.1. 2人の著者によって共同で発表された学名の後ろでは、両方の著者を "et" という語もしくはアンパサンド (&) で結んで使用すべきである。
ところが、2018年発行の深圳規約では以下の様になっている。
46C.1. After a name published jointly by two authors, both authors should be cited, linked by an ampersand (&) or by the word "et".
46C.1. 2人の著者によって共同で発表された学名の後には、両方の著者をアンパサンド (&) もしくは "et" という語で結んで引用すべきである。
日本語版では "使用" が "引用" になっているのがちょっと気になったりもするが、そんなことより、"et" と "&" が逆転している。
日本語版を入手して最初に通読した時、「あれ、順番が逆転したぞ?」と思ったが、それ以外の大きな変更点を理解するのが精いっぱいだった。
それ以降、新種記載論文を見るたびにそれとなく注意していたのだが、最近 "et" を使用している論文を見た記憶がない。
詳しく調べていないけれど、おそらくそれぞれの学術誌の投稿規定で決められているのだと思う。

実はもう一つ、"et" を使い続けてきた理由がある。HTML の記述文法上、"&" は、"&" と記述する必要がある。
("&" と書いただけでも多くのブラウザで問題なく表示される様だけれど。)
私はHTMLファイルを普通のテキストエディタで書いているのだが、キーボードの最上段のタイピングが少し苦手なので "et" の方が打鍵しやすい。
そんなこともあって、う~ん、どうしようかなあ、とずっと思いながらも、過去記事を変更するのが面倒で "et" を使い続けてきた。
だが、否決されたものの、"et" の使用を禁止する提案も出されている。将来は "et" が使えなくなるかもしれない気もするし、少数派であることは確かなようだ。
今のうちに変更しておいた方が良いな、と思うようになって、2023年更新分から "&" を使用することにし、過去記事も "&" に修正した。

因みに、3人以上の場合について、日本語版勧告46C.2 には次のようにある。
46C.2. 3人以上の著者によって共同で発表された学名の後には、原発表を除いて、引用は最初の著者だけに限定し、"& al." [およびその他] または "et al." をあとにつけるべきである。
実例2. Lapeirousia erythrantha var. welwitschii (Baker) Geerinck, Lisowski, Malaisse & Symoens (in Bull. Soc. Roy. Bot. Belgique 105: 336. 1972) は L. erythrantha var. welwitschii (Baker) Geerinch et al. と引用すべきである。
例文には "et al." と引用すべき、とのみあり、勧告と一致しない。英文版は正しく両者が例示されていて、赤字の部分が日本語版では欠落していることがわかる。
Ex. 2. Lapeirousia erythrantha var. welwitschii (Baker) Geerinck, Lisowski, Malaisse & Symoens (in Bull. Soc. Roy. Bot. Belgique 105: 336. 1972) should be cited as L. erythrantha var. welwitschii (Baker) Geerinck & al. or L. erythrantha var. welwitschii (Baker) Geerinck et al.
深圳規約は他にも誤植がいくつかあるけれども、まとまった正誤表は出ていないようだ。

(2023.01.01 記)