Caloscypha fulgens

Caloscypha fulgens

Caloscypha fulgens (Pers.) Boud.
キチャワンタケ。3月26日撮影。

[特徴]
地上に単生ないし散生する。子嚢盤は半球形から浅い椀状に開き、縁は小さな裂け目が入ることも多く、Otidea 状になるものもある。 普通は直径 2-3 cm. 程度まで、モミ林に発生する物はやや大型になる。肉質は脆い。子実層面は黄色ないしオレンジ色で平滑、時に中央付近は皺状になる事がある。 外面は白っぽい黄色でほぼ平滑、ルーペ下では微粉状にみえる。縁付近や基部等、所々にしみ状の青緑色を帯びた箇所があり、外面全体が灰青緑色の子実体もある。 柄はほとんど無いか、あるいは表面が白黄色ないし淡青緑色で腐食質を取り込んだ綿状の短い柄があり、淡青緑色の菌糸束になって基質に拡がることがある。-- 子嚢は円筒形、薄壁、先端は有蓋、メルツァー液で呈色しない。下半は細くなって緩く曲がりくねり、基部は2叉状になる。 8胞子をほぼ一列に生じるが、後には部分的に2列になって先端に固まる。120-160 × 8.0-12.0 μm. -- 側糸は糸状、隔壁があり基部付近で分岐する。やや屈曲し、径 2.0-2.8 μm. 程度、先端は次第に細くなる。一様な淡黄色の内容物あるいは黄色の小油球状物を含み、下半は空胞が多い。-- 子嚢胞子は球形、薄壁、平滑。内容はほぼ一様で無色、径 6.0-6.6 μm.、射出された胞子には無色透明の被膜があり、水中で膨らんで径 10-12 μm. までになる。-- 托髄層はほぼ無色で比較的疎な絡み合い菌組織、菌糸は薄壁、隔壁があり径 5-12 μm. 程度、黄色の油球を少量含む。 外皮層は厚さ 60-100 μm.、径 8-20 μm. の淡黄色の丸みを帯びた不整形細胞からなる。青緑色の部分の細胞には、暗緑色の顆粒状の内容物がある。 基部付近や柄表面の菌糸は、径 6-12 μm.、やや厚膜、隔壁があり、先端は丸い。暗緑色の細かい顆粒状物質が付着する。

[コメント]
早春から春にかけて針葉樹林内地上に散生する。 子実体は傷つけると緑変するとされるが、緑色をしている部分は普通は外皮層最外部に限られ、内部の組織は変色しない。 採集した子実体を切ったり擦ったりしても、なかなか変色しないことも多い。一方で、全く擦れた跡のない未熟な子実体でも広範囲に緑色を帯びるものがあり、 肉が短時間で青変するイグチ類や乳液が青変するハツタケ等とは性質が異なる。上掲写真はスギの植林地内で撮ったものだが、マツ、ヒノキ、モミなどの樹下にも発生する。 それぞれ大きさや変色性にやや違った傾向があり、スギ生の子実体とモミ生のそれは肉眼的にもかなり異なる。顕微鏡的には子嚢胞子の大きさ等に僅かな差があるが、明瞭な区別点を見いだせない。 欧米産のものも含めて C. fulgens 一種とされているが、複数種に分けられるものだろうと思う。 不完全世代は Geniculodendron pyriforme Salt とされ、針葉樹の種子の発芽を阻害するという。 この種名は日本産菌類集覧(勝本, 2010)に収録されているが、邦産を報じた論文の引用が無く、日本植物病名目録(日本植物病理学会, 2020)には収録されていない。

[別図2] 3月15日撮影。スギ林地上生。早春にスギ林で発生するものは殆んど、あるいは全く青変しないものがある。子実層の色調はレモン色に近く、子実体は水っぽく脆い。別種かも知れないと思う。 川口 (2016) は緑変性のないキチャワンタケ近似種 Caloscypha sp. を報告している。あるいはそれに該当するものか。
[別図3] 4月16日撮影。ヒノキ林地上生。
[別図4] 4月28日撮影。モミ林地上生。やや大きく、直径 4-5 cm. までになり、やや深い椀状。
[別図5] 4月3日撮影。モミ林地上生。この様に外面全体が青緑色を帯びる子実体も多い。
[別図6] 3月27日撮影。モミ林地上生。Otidea 状の子実体。一部暗青緑色を帯びる部分があるが、傷つけても変色しなかった。

[参考文献]
Dennis (1981): British Ascomycetes. Rev. ed.
Dougoud (2014): Apports à la connaissance de Caloscypha fulgens (Pezizales). (Ascomycete.org ; 6(1), p. 5-10).
Paden et al. (1978): Caloscypha fulgens (Ascomycetidae, Pezizales): the perfect state of the conifer seed pathogen Geniculodendron pyriforme (Deuteromycotina, Hyphomycetes). (Canadian journal of botany ; 56, p. 2375-2379).
川口 (2016): 山口県産きのこ類の採集・確認目録. (豊田ホタルの里ミュージアム研究報告書 ; 8, p. 21-163).

[初掲載日: 2005.03.26, 最終更新日: 2021.03.31]