Galiella celebica
Galiella celebica (Henn.) Nannf. (by Japanese authors)
オオゴムタケ。5月29日撮影。
[特徴]
朽木上に単生あるいは少数が群生する。朽木は表面が黒変し硬い。子実体は初めは頂部に孔がある球形、後に開いて半球形や倒釣鐘形になる。直径 2-6 cm.
子実層面は平滑、幼時灰茶褐色、後にはほとんど黒色。縁はやや突出し黒褐色の毛が立ち上がる。
外面は黒褐色、短い毛に密に覆われてビロード状。柄はほとんど無い。
全体が弾力のあるゴム状だが成熟後は軟らかくなり外面には皺を生じる。内実は幼時乳白色、後にはほぼ無色の寒天状。--
子嚢は円筒形、厚膜、下半は細くなりやや曲がりくねる。8胞子を1列に生じる。440-530 × 14.0-18.6 μm. --
側糸は糸状、隔壁があり 3.0-4.0 μm. 先端はやや膨らんで 6 μm. 程度になり、淡褐色の内容物がある。--
子嚢胞子は楕円形、左右不対称、成熟した子嚢胞子はやや黄色味を帯びて見える。3油球を含む物が多い。
表面にはコットンブルーに良く染まる細かい疣状突起がある。28.0-35.5 × 11.2-12.8 μm. --
托髄層はゼラチン質に埋まる細い菌糸(径 2-8 μm.)からなる。外皮層は厚さ 50 μm. 程度まで、多角菌組織で各細胞は径 20 μm. までで褐色、やや厚膜。
毛は最外層から生じ、2種類ある。一つは細く径 9 μm. 程度まで、隔壁がありやや厚膜で淡褐色平滑、曲がりくねって伸び先端は丸い。
分岐はほとんど認められない。もう一つはやや太め(径 18 μm. までになる)で直線的、隔壁があり厚膜で濃褐色、先端は丸い。
全体に細かい疣状突起がある。長さは数百ミクロンから縁部では 2 mm. 以上になる。後者の毛は縁部に多く見られる。
[コメント]
春から秋にかけて広葉樹の朽木上に生える大型のチャワンタケ。肉厚な寒天質で食べられるというが、私は試食したことがない。
オオゴムタケの学名は日本の図鑑ではほとんど全て Galiella celebica となっているが、この学名については大谷博士の論文に詳しい解説がある。
最初に報じた原寛氏の論文では群馬県水上産の菌について Sarcosoma platydiscus と「同一種とみてよかろう」としながらも、
外形が少し異なる以外は S. javanicum と一致する、と述べている。また Seaver の North American cup-fungi に掲載されている北米産の種
(Seaver は Bulgaria globosa の学名を使っている)と同一種なのはほとんど疑う余地がない、としている。
次に小林義雄氏は高尾山産のオオゴムタケを検し Sarcosoma celebica であると判断したが、これは
Sarcosoma platydiscus の変種と考え学名は Sarcosoma platydiscus var. celebicum (Henn.) Kobayasi とした。
川村清一氏は原が報じた朽木上に生えていたという菌を Seaver が使った学名 Bulgaria globosa として著書「原色菌類図鑑」7巻に図示しているが、
発生場所については「主として針葉樹林蘚類の間地上に生ずる。切株の腐ったものの上にも生えることがある。」となっている。
地上に生ずる、というのが川村自身の観察かどうかは不明だが、Seaver の「On the ground among mosses in fir woods.」を訳したものかもしれない。
大谷は学名を Galiella celebica とした上で、近似の別種が産する疑いが皆無ではないが、
観察した相当数のオオゴムタケは全て G. celebica に合致した、と述べている。そのオオゴムタケの外面に生じる毛状菌糸は大谷の記述に拠れば
「褐色でやや厚膜、粗面」で「長さは 100-400 μm.、径 7.5-12.5 μm. でよじれ曲がり、あるいはまっすぐ」である。
私は関東付近のオオゴムタケを観察した事は無いが、この毛の特徴は京都付近で見られるオオゴムタケとは少し様子が違っている。
京都付近のオオゴムタケでは上記の様にやや淡色で細めの平滑な毛と、濃色で太めの直線的な粗面の毛の2種類の毛状菌糸が観察できる。
Galiella celebica の毛状菌糸について詳しい記述のある Le Gal の Les discomycètes des Madagascar や、G. celebica
の毛は平滑とする中国真菌志21巻を見るとオオゴムタケを G. celebica とするのには若干の疑問が残る。
この毛の特徴はむしろ上記文献にある G. javanicum に良く似ており、他の特徴も原が指摘したように G. javanicum と合致するところが多い。
小林の論文にはオオゴムタケの縁毛の図が添えられているが、
厚膜で表面が平滑なものや棍棒状で粗面なもの(ただし疣状ではなく刺状突起のような物が生じている)が描かれていてこれも疑問だ。
日本産オオゴムタケについては、近似種の存在も含めてまだ検討の余地があると思うけれど一応この学名を使っておく。
[別図2]
10月17日撮影。
[参考文献]
原 (1933): 奥利根ニアル興味深キ子嚢菌(一). (植物研究雑誌 ; 8(8) p. 391-395).
小林 (1937): ブルガリア菌類群ニ就テ. (植物研究雑誌 ; 13(7), p. 510-520).
Otani (1980): Sarcoscyphineae of Japan. (Trans. mycol. Soc. Japan ; 21. p. 149-179).
[初掲載: 2004.08.25; 最終更新: 2009.11.02]