Hydnotrya tulasnei

Hydnotrya tulasnei

Hydnotrya tulasnei (Berk.) Berk. & Br.
クルミタケ。6月12日撮影。

[特徴]
子実体はほぼ球形で凹凸のある塊状。直径 1-3 cm.、表面はわずかに微毛状でレンガ色ないし赤褐色、古くなるとほとんど黒色になる。 表面には時に小さな穴がいくつか開き内部の子実層が見える事がある。肉質は比較的硬く、顕著な香りは無い。 断面は迷路状で内部には狭い空隙がある。子実層面は微毛状に毛羽立って白っぽく見えるが、断面は胞子の成熟に伴い赤褐色になる。-- 子嚢は円筒形ないし棍棒状、メルツァー試薬に呈色せず、先端の蓋は明瞭には確認し難い。基部は細くなり短い柄状になる。8胞子を生じるが、一列に並ぶものと不規則な2列になるものがある。 2列になるものは幅が広く、長さが短いものが多い。170-240 × 34-55 μm. -- 側糸は糸状、隔壁があり無色。ミミズ状に曲がりくねり子嚢より長く伸びる。ほぼ上下同幅で径 6.0-7.5 μm. -- 子嚢胞子は初めは無色球形で大きな油球を一つ含むが、成熟すると厚膜赤褐色になり表面は非常に粗く不規則な疣状になる。 疣を含めて直径 28.0-34.5 μm.、膜は厚い部分では 5 μm. 以上になる。-- 内部組織は柔組織状、外皮層は厚さ 100-150 μm. でやや厚膜赤褐色の多角形細胞の層よりなる。最外層からはほとんど無色の短い菌糸がまばらに立ち上がる。隔壁は少なく、30-50 × 6-8 μm. 程度で先端は丸い。

[コメント]
初夏の頃、広葉樹林内の地中に発生し、クヌギ林やカシ林などでよく見る。 道路わきの斜面やコケの間に半分現れているものがよく見つかるが、これは発生条件というよりも見つけやすいという事だろう。 地下生なので目に付きにくいが比較的普通種で発生量も少なくない。 落葉を掻いて探すと地表のわずか下あたりでよく見つかる。地中から掘り出したものは表面の菌糸は確認し辛い。 クルミタケという和名はもちろん外観がクルミの核果に似ているからだが、成熟した子嚢胞子もクルミにたいへん良く似ている。 クルミタケ属は系統的にはシャグマアミガサタケなどに近縁で、日本からはクルミタケ一種が知られていただけだったが、近似の別種が日本にも分布する事が判明している。 ここでは従来の意味でのクルミタケとして上記の学名を当てておく。ヨーロッパでは "赤トリュフ" と呼ばれ、食用にできるということだが試した事はない。

[別図2] 6月12日撮影。断面。

[参考文献]
Pegler, Spooner and Young (1993): British truffles : a revision of British hypogeous fungi.
Stielow et al. (2009): The neglected hypogeous fungus Hydnotrya bailii Soehner (1959) is a widespread sister taxon of Hydnotrya tulasnei (Berk.) Berk. & Broome (1846). (Mycol. progress ; 9, p. 195-203).
大前ら (2011): 日本産 Hydnotrya(クルミタケ属)の分子系統解析について. (日本菌学会第55回大会講演要旨集).

[初掲載日: 2006.06.19, 最終更新日: 2018.11.19]