Hypomyces sp. no.1

Hypomyces sp. no.1

Hypomyces sp. no.1.
ヒポミケス類。8月3日撮影。

[特徴]
地表や落葉落枝上に発生する。直径 1-2.5 cm.、厚さ 1 mm. 程度の不定形板状の子座を形成し、表面には子嚢核がほとんど埋れて群生する。 子座はやや硬い肉質、肉眼では白色ないし淡クリーム色の地に蜜色ないし淡茶褐色の子嚢殻の先端が突出して細かい点状に見える。 子嚢殻は表面下に一層に埋生し、頸部が表面に突出する。洋梨形、170-230 × 250-300 μm.、KOH水溶液で変色しない。-- 子嚢は円筒形、先端は肥厚してやや平らになり、メルツァー液で呈色しない。8胞子をほぼ一列に生じる。180-206 × 6.2-6.8 μm. -- 側糸らしいものは認められない。-- 子嚢胞子は紡錘形、無色、真直ぐあるいは緩やかに湾曲して左右不対称、中央付近に隔壁があり2細胞、隔壁部は括れる。表面は両端以外は細かい疣状突起に覆われる。 隔壁はほぼ中央にあるが、僅かに上半側の細胞が長く、また幅も広いものが多い。 両端には平滑な円錐形の突起がある。突起は長さ 2.8-3.2 μm. 程度、先端はあまり尖らずわずかに丸く膨らむ場合もある。全体で 28.0-34.3 × 6.0-6.8 μm. -- 周辺の地表、落葉上などに不完全世代と思われる菌がしばしば観察できる。 菌叢は薄く広がり白色粉状ないし微毛状、分生子は無色、薄壁、長卵形ないし楕円形、14.3-25.8 × 6.5-11.5 μm.、時に隔壁を生じ2細胞になる。 厚膜胞子は観察できなかった。

[コメント]
カシ類を中心とした広葉樹林内の遊歩道の法面裸地に発生していた物。 寄主であるキノコが完全に腐敗、消滅した後に地表や植物遺体上に完全世代が形成される特徴は Hypomyces armeniacus Tul. と同じである。 寄主は既に無くなっていたので確認できなかったが、周辺にはかなり大型で傘が淡褐色のベニタケ属の子実体がいくつか生えていた。 すでに老熟していて虫食いも激しく種類はわからないが他にキノコは無かったので、おそらくこれが寄主と思われる。 環境衛生検査センターの常盤氏にメイルで伺ったところ、Cladobotryum apiculatum の完全世代(Tokiwa and Okuda (2006) で Hypomyces sp. KS 04137 とされているもの)ではないか、とのお返事をいただいた。 氏に拠れば主に低山域で崖の縁部によく発生するというから、その点も一致する。 ただ、掲載画像の子実体の子嚢胞子は Tokiwa and Okuda (2006) の値 (29.5-32 × 6.5-7 μm.) と比較してかなり小さく (20.0-29.2 × 5.1-5.8 μm.)、 未熟なものと考えられるので、顕微鏡的な特徴は完熟体の [別図3] の計測値によって修正した。

[別図2] 発生状態の全体。既に無くなった寄主の周囲の地上に輪状になって発生している様子がわかる。 輪の直径は 6-8 cm. 程度。輪の内部の地表では不完全世代と思われる白いカビが観察できた。 中央に寄主となったキノコの抜け落ちた跡と思われる浅い穴が見える。同日撮影。
[別図3] シイ林内地上、まばらに生えたコケや植物遺体上に発生していた物。長径 15 mm. 程度。これも周囲には寄主と思われるキノコが見当たらなかった。11月6日撮影。

[参考文献]
Tokiwa and Okuda (2006): Japanese species of Hypomyces and its anamorph VI. (日本菌学会第50回大会発表).

[初掲載日: 2013.09.30, 最終更新日: 2016.11.14]