Mniaecia jungermanniae

Mniaecia jungermanniae

Mniaecia jungermanniae (Fr.) Boudier
ミドリコケビョウタケ。 4月16日撮影。

[特徴]
苔類上に単生ないし少数が群生する。子嚢盤はやや肉厚なクッション状、直径 1 mm. 程度まで。 子実層面は平滑、やや透明感のある青緑色だが乾燥すると暗緑色になる。縁は全縁、外面は平滑、同色。 柄は無く、基質にやや広く固着する。肉質はややゼラチン質状で柔らかく、内実は殆んど無色。-- 子嚢は棍棒形、薄壁、先端はやや平らになり、未熟な子嚢ではやや肥厚する。基部にはかぎ形構造がある。メルツァー試薬に呈色しない。 8胞子を一列に生じるが後には部分的に2列になるものが多い。125-158 × 18.0-22.6 μm. -- 側糸は糸状、隔壁があり、基部付近で分岐する。径 1.5-2.4 μm.。先端は球状や楕円状あるいはコケシ状に膨らんで径 7 μm. までになる。 内容物は一様で淡緑色、特に先端膨大部の直下あたりは濃い青緑色になり、表面に細かい青緑色粒状の付着物があるように見える。-- 子嚢胞子は卵形ないし楕円形、僅かに左右不対称な物が多く、ほぼ無色、薄壁、平滑、内容はやや大きめ(約 2 μm. 程度まで)の泡状の油球で満たされる。19.4-22.8 × 8.8-11.5 μm. -- 托髄層はほぼ無色、薄壁、径 10-20 μm. 程度の丸みを帯びた細胞が観察できるが、詳細を確認できなかった。 外皮層表面は青緑色の細胞からなり、縁付近では丸みを帯びた矩形状、基部に向かって太短くなりやや角ばった球形細胞となる。最大径 9-14 μm. 程度。 托組織はゼラチン化しているようには見えない。

[コメント]
早春から春にかけてコケ(苔類)上に生じる。湿っている新鮮な子実体は鮮やかなエメラルドグリーンで美しい。コケについては詳しくないので寄主は未同定だがツボミゴケ類だろうか。 海外では ツキヌケゴケ属 (Calypogeia)、ヤバネゴケ属 (Cephalozia)、コヤバネゴケ属 (Cephaloziella)、シロコオイゴケ属 (Diplophyllum)、 ツボミゴケ属 (Jungermannia)、スギバゴケ属 (Lepidozia)、タカネイチョウゴケ属 (Lophozia)、トサカゴケ属 (Lophocolea) 等が寄主として記録されている。 寄主のコケはどこにでも生えている普通種と思われ(少なくとも見た目で区別できないコケが遊歩道わきの土手や石の隙間などに普通に生えている)寄主範囲も複数属に亘るが、 この菌は生育条件が難しいのか、なかなか見つからない。ヨーロッパでも分布は広いようだが普通種ではなさそうだ。 Hosoya and Zhao (2016) によって国内新産として Jungermannia rosulans(ツボミゴケ)上から報告されミドリコケビョウタケの和名が与えられたが、これ以前に未発表に終わった国内の採集記録がある。 鉱物研究家で植物やキノコにも詳しかった丸本龍二氏(故人)によって1992年に採集された兵庫県産の標本(寄主はオオホウキゴケ J. infusca)が大谷吉雄博士に送られ、本種と同定されている。 丸本氏が運営していたサイト「六甲ミネラル」(鉱石関係の話題が中心。当時のアドレスは http://www.rokko-mineral.com/index_J.html、2002年2月閲覧確認)の中に自身で描かれた水彩画と共に発見の経緯が紹介されていて、 氏は記事の中で「ルリイロコケチャワンタケ」の名を提案しておられた。 氏の没後このサイトは閉鎖されたが、幸いにも丸本氏が会員であった大阪石友会のサイト内で "復刻" され、 ほぼ全てのコンテンツが閲覧可能(2017年4月20日閲覧確認、丸本氏の水彩画は現在リンクが切れている)である。 ただし、大阪石友会のサイト管理人により「リンクは堅くお断り致します」、「記事・写真の引用や転載は厳禁です」とあるのでサイトの紹介に留めておく。 事情はともかく、丸本氏の記録が再び閲覧できるようになっている事は嬉しい。 なお、Raspé and De Sloover (1998) に拠れば、従来 M. jungermanniae とされているものには特徴のやや異なる2種が含まれている可能性があると言う。

[別図2] 4月16日撮影。
[別図3] 2月23日撮影。 子嚢胞子は 22.3-23.5 × 11.4-12.3 μm.、托縁部の細胞は長く伸びて緩やかに曲がりくねり、長さは 45 μm. までになり、先端は棍棒状ないし球状に膨らんで径 4.5-5.8 μm. になる。-- 風化した花崗岩質の遊歩道法面に薄く拡がったコケに生じたもの。手のひら大の範囲に100個ほどの子実体が群生していた。 右方に見える棒のようなものはマツの落葉。コケは未同定だが、葉先が二裂し、先頭画像のコケとは明らかに異なる。

[参考文献]
Czarnota and Hernik (2013): Mniaecia jungermanniae and Puttea margaritella (lichenized Ascomycota) found in Poland. (Acta Societatis Botanicorum Poloniae ; 82(2), p. 175-179).
Hosoya and Zhao (2016): Enumeration of remarkable Japanese Discomycetes (10): two Helotiales and a Helotialean anamorph new to Japan. (Bulletin of the National Museum of Nature and Science, Ser. B ; 42(4), p. 113-119).
Raspé and De Sloover (1998): Morphology, ecology and chorology of Mniaecia jungermanniae (Ascomycota) in Belgium and the significance of its association to leafy liverworts (Jungermanniales). (Belgian journal of botany ; 131(2), p. 251–259).

[初掲載日: 2017.04.28, 最終更新日: 2019.03.25] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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