Sarcoleotia sp. no.1

Sarcoleotia sp. no.1

Sarcoleotia sp. no.1
クロズキンタケ属菌。12月7日撮影。

[特徴]
子実体は子実層が形成される頭部と柄からなり全体が軟らかい肉質。 頭部は肉厚の不正ドーム形、径 2.5-4 mm. 程度、表面は平滑、粘性は無く、黒褐色、中実、縁は内側に反り返り、縁はややささくれ状になり柄には癒着しない。下面は僅かに淡色、殆んど平滑。 柄は円柱状、頭部とは明瞭に分かれ、褐色、粘性は無く、中実、表面にはささくれだった淡色の鱗片がまばらにある。高さ約 8 mm.、径 1-1.5 mm. -- 子嚢は円筒形、薄壁、先端は肥厚して頂孔はメルツァー試薬でやや広く青変する。8胞子をほぼ2列に生じる。111-123 × 11.4-14.0 μm. -- 側糸は糸状、少なくとも上半には分岐が無く、隔壁がある。径 2.5-3.0 μm.、上半の細胞壁は淡褐色を呈し、緩やかに屈曲し、先端細胞はやや膨らんで径 3.4-4.3 μm.、無色の油球がほぼ一列に並ぶ。-- 子嚢胞子は僅かに湾曲した長ソーセージ形で両端は丸く、無色、薄壁、平滑、内容物は細かい泡状、隔壁のある子嚢胞子は認められなかった。18.5-25.8 × 5.1-6.0 μm. -- 柄の髄層は径 2.5-4.0 μm. の平行な薄壁の菌糸からなる。外皮層は髄層との境が不明瞭で厚さ 100-120 μm. 程度、 15-35 × 3-10 μm. 程度のやや太めの菌糸からなり、隔壁部は括れ、時に絡み合って束状になり立ち上がる。各細胞には淡色の油球が一個含まれることが多い。

[コメント]
ススキ群落中の裸地に単生していたもの。クロズキンタケ属には間違いないと思う。 Sarcoleotia は Imai (1934) によってクロズキンタケ = Sarcoleotia nigra S. Ito & Imai をタイプとして創設された属で、 Imai (1941) で子嚢が非アミロイド "poro iodo non caerulescentibus" とされているのは何かの間違いだろうか。 クロズキンタケのアイソタイプを検討した Maas Geesteranus (1966) は、僅かな相違があるものの S. platypus (DC) Maas G. のシノニムとしている。 Schumacher and Sivertsen (1987) は、S. platypus を疑問名としたうえで、S.nigra と共に S. globosa (Sommerf.) Korf のシノニムとしている。 Imai (1940) はノルウェー産の S. globosa(報文中では Corynetes globosus)を報告している中で、 近似種の C. arenarius に言及しているが S. nigra については触れておらず、同種あるいは近縁種とは考えていなかったと思われる。 Maas Geesteranus (1966) も S. platypus と C. globosus とは別種との見解を取っている。 クロズキンタケの子嚢胞子は S. globosa や S. platypus と同じく、下半部がやや細まるようだが、私の採集品の子嚢胞子は両端がほぼ同じ大きさで丸く、隔壁はみられない。 また、Imai (1941) にはクロズキンタケの胞子紋はピンク色を帯びるとあるので採取を試みたが、肉眼では放出された子嚢胞子を確認できなかった。 子嚢胞子の成熟した子実体は一個しか観察できておらず、変異の程度がわからないので、Sarcoleotia 属の一種としておく。 Sarcoleotia 属は、主に高緯度の比較的冷涼な地域を中心に分布する菌だが、多田 (2006) によるブータンでのクロズキンタケの記録(ブムタン地方、標高 2800 m.)がある。 なお、廣瀬他 (2018) は最近国内で販売されているエリカの植木鉢に Sarcoleotia globosa とされる菌が発生する事を報告しているが、肉眼的、顕微鏡的特徴共に異なるように思える。
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日本大学の廣瀬氏から平成30年度日本菌学会関東支部年次大会で発表された際の資料をお送りいただきました。感謝いたします。

[参考文献]
Gamundi (1980): Subantarctic Geoglossaceae. II. (Sydowia ; 32, p. 86-98).
Imai (1934): Studies on the Geoglossaceae of Japan. (Trans. Sapporo Nat. His. Soc. ; 13, p. 179-184).
Imai (1940): The Geoglossaceae of Norway. (Annales mycologici ; 38, p. 268-278).
Imai (1941): Geoglossaceae Japoniae. (J. of the Fac. of Agr., Hokkaido Imperial Univ. ; 45(4). p. 155-264).
Maas Geesteranus (1966): On Helvella platypus DC. (Proc. K. Ned. Akad. Wet. Ser. C. Biol. Medl. Sci. ; 69, p. 191-203).
Schumacher and Sivertsen (1987): Sarcoleotia globosa (Sommerf.: Fr.) Korf, taxonomy, ecology and distribution. (Arctic and alpine mycology ; 2, p. 163-176).
多田 (2006): ブータン王国におけるキノコ調査. (関西菌類談話会会報 ; 26, p.9-11).
廣瀬 他 (2018): 本邦で流通するエリカ属植物の栽培ポットで子実体形成する Sarcoleotia 属の分類と生態. (平成30年度日本菌学会関東支部年次大会一般講演).

[初掲載日: 2020.02.07, 最終更新日: 2020.02.25] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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