Sarcoscypha sp. no.1

Sarcoscypha sp. no.1

Sarcoscypha sp. no.1
"ベニチャワンタケ"。8月28日撮影。

[特徴]
広葉樹の朽木上に生じ、単生あるいは少数が群生する。 椀状から浅い皿状に開き、直径 2-5 cm.、子実層面は鮮やかな紅色で普通は平滑、ときに波打つこともある。 縁は全縁、ルーペ下では僅かに反り返って細かい鋸歯状に見える事があり、外面はほぼ平滑で白っぽく(組織は半透明乳白色だが、子実層の色が透けて淡赤色に見える)基部に向かって皺状になる事が多い。 ほとんど無毛あるいは基部付近には少量の寝た毛があり、肉眼ではやや粉状に見える。 柄はほとんど無い場合から、比較的長い(時には 2 cm. 以上になる)場合もあり、ほぼ中心生、乳白色、基部付近から基質表面に綿状の菌糸が薄く拡がることがある。肉質は丈夫。-- 子嚢は長円筒形、下半はやや細く曲がりくねる。8胞子を1列に生じる。全体やや厚膜で有蓋、蓋は中央から僅かに側方に外れて開く。メルツァー液に呈色しない。280-350 × 9-13 μm. -- 側糸は糸状、先端は時に槍状に膨らみ、隔壁があり、少数の分岐がある。全体に赤い顆粒状の内容物がある。径 2-2.5 μm. -- 子嚢胞子は長楕円形あるいは長たわら形(僅かに扁平だと思われる)無色、やや厚膜、平滑、両端はやや平らで僅かに凹んで見えるものがある。 比較的大型(直径 6 μm. まで)の2個の油球と細かい泡状内容物を含む。両端付近で厚くなる被膜が見られることがあるが不明瞭。 子嚢胞子は一子嚢中でも大きさにばらつきが大きく、子嚢の基部にある胞子ほど細長くなる傾向がある。20.6-30.2 × 8.8-11.5 μm. -- 老熟した子実体上では発芽した子嚢胞子が観察できる。子嚢胞子は一端あるいは両端から発芽して少数の短い細胞を鎖状に伸ばして分岐し、先端に1-3個の分生子を出芽する。 分生子は楕円形、長卵形、時に腎臓形に曲がる。無色、薄壁、平滑、2油球を含む。4.5-7.2 × 2.3-3.2 μm. -- 托組織髄層は比較的疎な絡み合い菌糸組織、無色薄壁で径 5-15 μm. の菌糸よりなり、隔壁部は括れる。 外皮層は厚さ 50 μm. 程度まで、やや丸みを帯びた伸長菌糸組織で、各細胞は 5-12 × 20-60 μm. 程度。 托表面には径 2.5-4 μm. 程度の菌糸があり、短い毛状菌糸が分岐して立ち上がる。 毛状菌糸は長さ 30 μm. 程度まで、曲がりくねって時に分岐し、先端は丸い。無色のほぼ一様な内容物がある。

[コメント]
秋に広葉樹と思われる落枝や倒木上に発生する。 老熟して軟らかくなった子実体の子実層上に射出された子嚢胞子は、発芽して太く短い発芽管の先端に分生子を生じていることが多いが、 同じ子実体から素寒天上に落下させた子嚢胞子の中には細く長い菌糸を伸ばし、分生子をなかなか生じない場合もある。(これは大谷 (1980) でもベニチャワンタケで確認されている。) 子嚢胞子の両端は凹んで見えるものとそうでないものが混在するが、溝状に凹んでいるようで、一つの子嚢胞子でも見る方向によって変わる。 大谷 (1980) は、子実層面が赤色の邦産ベニチャワンタケ属菌を Sarcoscypha coccinea(ベニチャワンタケ)と Sarcoscypha occidentalis(ベニチャワンタケモドキ)の2種としていて、 これは S. coccinea とされていた種だと思うが、ヨーロッパ産の S. coccinea の子嚢胞子は大型の油球を含まないと言うから別種だろう。 Harrington (1997) は日本産の同属菌を再検討し、ベニチャワンタケには S. hosoyae Harrington、ベニチャワンタケモドキには S. knixoniana Harrington の新名をそれぞれ与えていて、 「日本のきのこ」(山と溪谷社, 1988)の 555ページ右上の図版 (S. coccinea) は S. hosoyae、 同ページ左上の図版 (S. occidentalis) は S. knixoniana であるとしている。(同書増補改訂新版 (2011) の図版説明では誤同定だったとして共に Sarcoscypha sp. と修正されている。) 図鑑などで見る限り、北海道で春に生じるベニチャワンタケと本州で秋に生じるベニチャワンタケは少し異なるし、日本産のベニチャワンタケがすべて S. hosoyae かどうかはよくわからない。 Harrington (1997) は、S. hosoyae の子嚢は同時的に成熟する ("All the asci appear to have ascospores the same age") としているが、 京都付近で秋に普通に見つかるベニチャワンタケはそうとは限らない。 私の採集品は S. hosoyae や S. knixoniana の特徴に必ずしも一致せず、複数種を混同して観察している可能性もある。 中国大陸からは近似種の報告もあり、疑問が残るので Sarcoscypha 属の一種としておく。

[別図2] 10月12日撮影。 アルビノ。正常な子実体と稀に混生する。側糸の色素の有無以外は違いは見られない。
[別図3] 10月3日撮影。 朽木表面は黒ずむことが多い。

[参考文献]
Harrington (1997): New species of Sarcoscypha (Sarcoscyphaceae, Pezizales). (Harvard papers in botany ; no. 10, p. 53-64).
大谷 (1980): 日本産ベニチャワンタケ亜目. (Trans. mycol. Soc. Japan ; 21. p. 149-179).

[初掲載日: 2004.09.21, 最終更新日: 2019.10.18] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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