Sorosphaerula veronicae

Sorosphaerula veronicae

Sorosphaerula veronicae (Schröter) Neuhauser & Kirchmair = Sorosphaera veronicae (Schröter) Schröter
タチイヌノフグリの球嚢菌。4月21日撮影。

[特徴]
タチイヌノフグリの茎に菌癭が形成される。 菌癭は根際近くに多く、茎の側面が肥大して縦長の瘤状ないし不整豆状、10 × 4 mm. 程度までになり、硬く、表面は平滑、後にはひび割れや裂け目を生じ、さらには軟らかくなって崩れる。 内部は初めはほとんど白色、後に褐色になり、菌癭の崩壊後は粉状。寄主細胞中に多数の休眠胞子嚢球が形成される。-- 休眠胞子嚢球は球形、時にやや不整あるいは長円形、多数の休眠胞子嚢が表面に一層に並んでキイチゴの果実状の球形になったもので、中心部には空間がある。 表面全体が被膜に覆われ、初めは淡色、各胞子嚢の表面がやや凸状に膨らむが、後には褐色になり、表面はほとんど平らになる。径 22-42 μm. -- 休眠胞子嚢は細卵形ないし内側が細まった円柱形、厚膜、表面側で径 4-5.4 μm.、内側で径 2.4-3.2 μm.、長さ 5.7-7.2 μm.

[コメント]
春、タチイヌノフグリ (Veronica arvensis) に発生する。休眠胞子嚢は発芽して粘液アメーバ状になると言うが、未観察。 逸見・野島 (1934) では "中空" とされる休眠胞子嚢球の中心部は無色の液体で満たされていて、油球や顆粒状物質は認められない。この部分が寄主由来なのか、菌由来なのか、よくわからない。 また、逸見らは菌癭内に "淡褐色の隔膜のある菌糸" を認めているが、明らかに別の菌のものである。 Plasmodiophoraceae(ネコブカビ科)に属し、以前は変形菌類や下等な菌類の仲間(例えば "藻菌類"、"古生菌類" 等と呼ばれた)として扱われていた。 現在では原生動物(鞭毛虫類)に含められ、菌類とは別系統群とされている。 日本植物病名目録 (2021) には収録されておらず、特に和名は与えられていないようだが、大日本菌類誌(伊藤, 1936)では "球嚢菌"、菌類図鑑では "球のう菌" とされている。
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初掲載時に Nauhauser and Kirchmair (2011) を見落としていた。 球嚢菌は現在、鞭毛虫類(菌類ではなく動物)に帰属するとされるので、学名は国際動物命名規約 (International Code of Zoological Nomenclature) に従うことになる。 その結果、Sorosphaera Schröter, 1889 は有孔虫類に与えられた属名 Sorosphaera Brady, 1879 の後続同名となった。 上記論文によって球嚢菌には新たな属名 Sorosphaerula が与えられているので、訂正する。[2022.11.07 追記]

[別図2] 4月21日撮影。

[参考文献]
Nauhauser and Kirchmair (2011): Sorosphaerula nom. n. for the Plasmodiophorid genus Sorosphaera J. Schröter 1886 (Rhizaria: Endomyxa: Phytomyxea: Plasmodiophorida). (Journal of eukaryotic microbiology ; 58(5), p. 469-470).
宇田川 他 (1978): 菌類図鑑. 上. 講談社.
逸見・野島 (1934): 本邦に於て初めて發見せる珍らしき菌癭に就きて. (植物及動物 ; 2(2), p. 337-344).

[初掲載日: 2021.05.07, 最終更新日: 2022.11.07] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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