Waltonia pinicola

Waltonia pinicola

Waltonia pinicola Saho
ワルトニア枝枯病菌。6月2日撮影。

[特徴]
落枝に散生し、時に少数が房状に発生する。子実体は表皮下から発達し、始めは太く短い柄のある球形ないしまんじゅう形、表面はほとんど黒色、平滑でややつやがあり、全体が軟骨質。径 0.5-1 mm. 程度まで。 成熟後、湿ると上面が裂開して開き、淡黄色の子実層が現れ、ややゼラチン質になる。縁部は外皮が低い鋸歯状になって小さく反り返る。-- 子嚢は棍棒形、薄壁、先端はやや平らになり、ほとんど肥厚せずメルツァー試薬に呈色しない。8胞子をほぼ2列に生じる。148-172 × 11.5-14.8 μm. -- 側糸は糸状、無色、隔壁があり、下部で径 2.5-3.0 μm.、先端付近は径 1 μm. 程度に細まり緩やかに曲がりくねる。-- 子嚢胞子は長紡錘形、無色、薄壁、平滑、始め数個の油球が目立ち、後に横に少数 (1-3) の隔壁を生じることがあり、22-25.8 × 4.8-5.2 μm.、両端は細毛状に伸びる。 細毛状の部分は長さ 14-35 μm.、基部付近で 0.7 μm. 程度、先端に向かって僅かに細くなる。-- 托組織髄層はほぼ無色のゼラチン化した径 2.5-3.5 μm. 程度の絡み合い菌糸組織からなる。外皮は径 3-5 μm. 程度の黒褐色で丸みを帯びた厚膜の多角形細胞からなる。

[コメント]
アカマツ (Pinus densiflora) の落枝に発生していたもの。Saho and Takahashi (1970) の原記載には、 子嚢胞子の大きさ(細毛状の部分を除く。この細毛状部分は付属糸ではなく、胞子細胞が細く延長したもので、その先端から発芽すると言う)は "12-17 × 4-5 μm." とあり、 かなり短い(l/b比は 3 強)のが気になる。原記載に図示された子嚢胞子はスケールから計算すると 20-28 × 7-9 μm. 程度となるが、l/b比は記載通りなので、スケールが不適当なのかもしれない。 植物病原菌類図説の子嚢胞子の図 (p.161) にスケールは無いが、 l/b比はおよそ 5 で、私の計測値(約 4.8)とほぼ同じになる。 周藤 (2000) に拠れば、子嚢胞子は "14-21 × 3.2-4.8 μm." であり、l/b比はおよそ 4.5 程度になるが、やはり私の計測値より小型である。 この点が少し疑問だが、両端が細糸状に伸びる子嚢胞子は特徴的で、同定は間違っていないと思う。 なお、子嚢胞子はまれに縦の隔壁を生じるともあるが、確認できなかった。また分生子殻も観察できなかった。 最初、佐保・高橋 (1968) によって Pragmopora (?) sp. として報告され、後に新属新種とされたもので、属名 Waltonia は Pragmopora 属等の研究者 J. Walton Groves に因む。 なお、佐保・高橋の論文 「数種のストローブマツ枝枯性病原菌について」 は、Saho and Takahashi (1970) や 日本産樹木寄生菌目録(小林、2007)には出版年が "1967" として引用されているが、この論文が掲載された日本林学会北海道支部講演集第16号には表紙に 「昭和42年11月」 と講演年月が記され、 奥付には 「昭和43年3月10日発行」 とあるので、ここでは 1968 とします。

[別図2] 6月2日撮影。やや乾燥した状態。

[参考文献]
Saho and Takahashi (1970): Waltonia gen. nov. (Helotiales, Dermateaceae) found on Pinus spp. (Trans. Mycol. Soc. Japan ; 11(1), p. 3-6).
佐保・高橋 (1968): 数種のストローブマツ枝枯性病原菌について. (日本林学会北海道支部講演集 ; 16, p. 116-118).
周藤 (2000): 樹木病害観察ノート (1). (森林防疫 ; 49(7), p. 120-125)

[初掲載日: 2019.06.14] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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