Xylaria liquidambar

Xylaria liquidambar

Xylaria liquidambar Rogers, Ju & San Martín
フウの実から生じるクロサイワイタケ類。9月9日撮影。

[特徴]
子実体はフウの実から数本ないしそれ以上が発生する。成長中の子実体は曲がりくねったひも状で、先端は尖り橙色を帯びる。 全体がほぼ黒褐色の細柱状で普通は分岐しないが、下方で分岐するものや逆に融合するものもある。 高さ 3-10 cm.、上半 1/3 から 1/2 が稔実部で子嚢核が生じるが、先端には細い針状の不稔部があるものが多い。 稔実部はやや太く、径 2-5 mm. で表面は細かい縦皺があり、時に細かくひび割れて淡色のかさぶた状になり、子嚢核の先端が点状に突出する。 柄はやや細く径 1-3 mm. 程度。表面は皺状で無毛だが、基部付近は比較的太くなり、黒い粗毛がある。 内実は白くやや硬い肉質、中心にはやや褐色の髄のようなものがある事が多い。-- 子嚢核はほぼ球形で埋生、先端がわずかに突出する。径 250 μm. 程度。-- 子嚢は円筒形、8胞子を一列に生じる。先端にはメルツァー試薬で青変する比較的大型の栓状の構造がある。130-190 × 5-6.5 μm. -- 胞子は両端のやや丸い紡錘形で不対称、黒褐色で平滑。未熟な胞子には 1ないし2個の油球がある。11.8-15.0 × 4.0-5.5 μm. 側面の平らな側に、右上から左下に走る斜め S 字状の発芽スリットがある。-- 成長中の若い子実体は上半表面に分生子を密に生じ灰色粉状になる。分生子は無色、薄壁、平滑、楕円形ないしリンゴの種子状、6.0-8.0 × 3.1-3.8 μm.

[コメント]
地上に落ちたフウ (Liquidambar formosana) の古い果実から発生し、分生子を付けた子実体は初夏頃から見られるが子嚢核は夏から秋にかけて成熟する。 私が観察している某植物園のフウはかなり大木で、樹下が攪乱されないので非常に多くの子実体が毎年発生する。 寄主はフウ属に限られるようだが、日本には現在自生しておらず(原色日本植物図鑑木本編II (保育社, 1979) には「中新世から鮮新世に遺体が出るが、現在までに絶滅した」とある) 江戸時代に中国から伝来したという事なので、このキノコはフウと共に持ち込まれた帰化菌類なのかもしれない。 井口 (1998) が Xylaria persicaria としてフウ属から記録した菌と同じものだと思う。氏も帰化菌類の一例、としている。 Han and Shin (2007) は、韓国から Xylaria persicaria として報告し X. liquidambar との異同はさらなる検討が必要、としている。
Index Fungorum では、種形容語は liquidambaris とされている。Mycobank でも同様で、liquidambar は "orthographic variant"(共に 2022.06.09 閲覧確認)となっている。 Ascomycete fungi of North America (University of Texas Press, 2014) も Mycobank と同じ扱いである。 深圳規約 23.1 には 「種形容語は1個の形容詞、属格の名詞、あるいは属名と同格の単語」 とあり、 同規約 23.5 には 「種形容語が属名と同格の名詞または属格の名詞であるときには、属名の性に関係なく、形容語自身の性と語尾を維持する。」 とされているので、 liquidambaris と語尾を変化させる必要はないと思う。

[別図2] 6月12日撮影。表面に分生子をつけた若い子実体。
[別図3] 9月18日撮影。頭部の拡大。

[参考文献]
Han and Shin (2007): New record of Xylaria persicaria on Liquidambar fruits in Korea. (Mycobiology ; 35(4), p. 171-173).
Rogers, San Martín and Ju (2002): A reassessment of the Xylaria on Liquidambar fruits and two new taxa on Magnolia fruits. (Sydowia ; 54(1), p. 91-97)
井口 (1998): 生田緑地の菌類相について (その1). (川崎市青少年科学館紀要 ; 9, p. 29-34).

[初掲載日: 2005.12.26, 最終更新日: 2022.06.12] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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