バヴィウスという詩人

田中秀央の羅和辞典(研究社、初版は1952年刊)は、ラテン-日本語辞典の基本書だ。
ラテン語は古代ローマ帝国の言語だが、ヨーロッパでは学問を記述する言葉として近代まで使われ続けた。
現在ではほとんど使われていないはずだが、ラテン語の現代小説などもあると言うし、フィンランドでは Nuntii Latini というラテン語のラジオニュース放送もあるらしい。
日本でもラテン文法を習う人は結構いるようだ。ラテンの詩文を鑑賞したいという以外にも、やはり西洋の学問を支え続けた言語だけに
哲学、宗教等多くの分野でラテン語の読解力が必要となるはずだ。
それ以外に、植物(菌類を含む)の記載文はラテン語で書かなければならないから植物分類学者もラテン語の知識が必要だが、
そんなに複雑な言い回しを要求されるわけではないし、ちょっと性格が異なる。
私が本格的にラテン語に接したのは大学生の頃だった。
種の説明文がすべてラテンという日野、勝本両氏の "Icones fungorum bambusicolorum japonicorum" を理解したくて勉強し始めた。
でも、形態用語と格変化を覚えれば何とかなるという事がわかり、あまりその先に進まなかったのを覚えている。
現在は、仕事上ラテン語の図書にふれる機会が結構ある。そんな時使うのが上記の羅和辞典だ。
職場にあるのは増補版だが、その中におもしろい記述を見つけた。

Bavius. Vergilius 時代(A.C. 1世紀後半) のヘボ詩人。」

いきなりヘボ詩人って。もう少し書き方があるだろうとも思うが、いったいどんな奴だ。ちょっと調べてみた。
この Bavius なる人物、ほとんどの人名辞典には出てこない。
Harper's dictionary of classical literature and antiquities. には "A dull poet who ... attacked Vergil, Horace, and other Augustan writers." とあり、
The Oxford classical dictionary. 2nd ed. を見ると "A poetaster rescued from oblivion by Virgil's contempt." とある。
(Poetaster: へぼ詩人/三文詩人 という単語は初めて知ったが、-aster が「ヘボ」の意の接尾語らしく、次のような単語がある。
criticaster: へぼ批評家、latinitaster: へぼラテン語学者、 medicaster: にせ医者 ...)
Alexander Pope が "Dunciad" 中に名前を出した事でも知られているらしい。

Bavius 本人がどんな詩を書いたのかは分からないが(分かったところで私にラテン詩の良し悪しがわかるはずもないが)
ヘボという事だけで後世に名を残したと言うのはすごい事だと思う。私も Mycologaster と自称しようか。なんだか変な腹菌類みたいだ。

(2005.11.28 記)