Chlorociboria poutoensis
Chlorociboria poutoensis P.R. Johnst.
クロロキボリア ポウトエンシス。8月15日撮影。
[特徴]
子嚢盤は浅い椀形から平らに開き、さらにはやや凸型になりこともあり、比較的肉厚、直径 1.5-3.5 mm.。
子実層面は乳白色ないし淡象牙色を帯び、時に青緑色のしみ状の小斑点が散在する。
縁は全縁でわずかに内屈し、外面は青緑色、ほとんど平滑あるいはわずかに粉状。柄は中心生で短く濃色。
実質は乳白色。周囲の材は表面が青緑色に染まり、かなり硬い。--
子嚢はかぎ形構造より生じ、棍棒形、先端は肥厚してやや尖り、頂孔はメルツァー試薬で青変する。8胞子をほぼ2列に生じる。102-138 × 8.2-9.2 μm. --
側糸は糸状、直線的で先端は同幅かやや細まる。径 2.0 μm. 程度まで。--
子嚢胞子は長楕円形、やや左右不対称、無色、薄壁、平滑、2油球が目立つ。一端から発芽して菌糸を伸ばす。14.8-19.1 × 3.4-4.2 μm. --
托髄層は径 4 μm. 程度までの無色の菌糸からなる密な絡み合い菌糸組織、外皮層は厚さ 90 μm. 程度まで、
やや厚膜な径 15 μm. 程度までの丸みを帯びた多角形細胞からなる。外層の細胞には青緑色の顆粒状物質が付着する。
表面細胞から径 2.0-3.6 μm.、長さ 25 μm. 程度までの曲がりくねった毛状菌糸が立ち上がる。
やや厚膜、少数の隔壁があり、表面は青緑色の顆粒が付着して粗面、先端は丸く普通はほとんど膨らまないが、
時に虫垂状に伸びるものやこぶ状になるもの等がある。
[コメント]
夏から秋頃、広葉樹と思われる朽木の青変した材上に群生し、少なくとも関西地方では普通種。
乳白色の子実層面に時に青緑色の斑点がしみ状に散らばる特徴が「きのこ」(山と溪谷社, 1994. 新装版, 2006) に掲載されているヒメロクショウグサレキン(仮称)
= Chlorociboria omnivirens の写真の特徴と同じに見えたのでこの学名を当てていたが、間違っていたようだ
(この和名は長尾・黒木 (2001) で提唱されているが、上記図鑑では新装版でも「仮称」のままとなっている)。
邦産の C. omnivirens の報告、大谷・椿 (1976) には「椀の側面の所々に円錐形で褐色の菌糸塊が突出すること、子嚢及び子嚢胞子が大型なことでそれ
[Chlorociboria aeruginosa (Oud.) Seaver] から区別される」とある。各特徴の具体的な計測値は示されていないが、
図とそのスケールから計算すると菌糸塊は高さ 30 μm. 弱、子嚢胞子は 16-18 × 3.5-4.0 μm. 程度であり、
Dixon (1975) の同菌の記述と一致するが、ここに掲載した種の特徴とは異なる。
表面に曲がりくねった毛状菌糸のあるこのロクショウグサレキン属菌は C. poutoensis だろうと思う。
ニュージーランドから記載された種だが、最近中国や韓国からも報告されていて、特徴がほぼ一致する。
朽木上に群生してかなり目立つ種なので日本各地で盤菌類を採集した Korf 博士のコレクションにも含まれているはずだが、
Korf (1958) にある未記載種 Chlorociboria taxonomic sp. I-VI の中には該当するものが無さそうだ
(後に Dixon (1975) は、これらを Chlorociboria omnivirens, Chlorencoelia torta 等と同定している)。
Ren and Zhuang (2014) や Liu et al. (2017) に拠るとアジア産の菌の特徴は原記載とは僅かに異なるようで、
京都付近でも子実層面の色調や外面の毛の様子の特徴が少し異なるものを採集しているので複数の近似種を混同している可能性があるが、
現時点では表記の学名を当てておく。
[別図2]
10月24日撮影。
[参考文献]
Dixon (1975): Chlorosplenium and its segregates. II. The genera Chlorociboria and Chlorencoelia. (Mycotaxon ; 1(3), p. 193-237).
Johnston and Park (2005): Chlorociboria (Fungi, Helotiales) in New Zealand. (New Zealand journal of botany ; 43, p. 679-719).
Korf (1958): Japanese Discymycete notes I-VIII. (Sci. Rep. Yokohama Nat. Univ. ; 2(7). p. 7-35).
Liu et al. (2017): The genus Chlorociboria, blue-green micromycetes in South Korea. (Mycobiology ; 45(2), p. 57-63).
Ren and Zhuang (2014): The genus chlorociboria (Helotiales, Ascomycota) in China. (Mycosystema ; 33(4), p. 916-924).
長尾・黒木 (2001): 宮崎県および隣接域の盤菌類 (1). (宮崎県総合博物館研究紀要 ; 22, p. 143-151).
[最終更新日: 2017.11.27]