Claviceps miscanthicola
Claviceps miscanthicola E. Tanaka
ススキ類麦角病菌。6月6日撮影。
[特徴]
子実体は菌核から数本から10本程度発生し、子嚢殻が形成される頭部と柄からなる。
頭部はほぼ球形、直径 0.8-1.5 mm.、淡赤紫色。子嚢殻は多数、ほとんど埋生、先端は小さく突出してコンペイトウ状になる。柄との境界は明瞭でやや白っぽく見える。
頭部外皮層は厚さ 30-50 μm. 程度、やや丸みを帯びた径 4-8 μm. 程度の多角形細胞からなる。
柄は円柱形、直径 0.3-0.5 mm. 程度、長さは 15 mm. 程度にまで伸び地表に現れる。表面は平滑で淡赤褐色。--
子嚢殻は長卵形、先端は突出してやや尖り、紫褐色の粒状に見える。成熟した子嚢殻は子嚢胞子を白色乳液状に噴出する。250-350 × 120-180 μm. --
子嚢は細円筒形、先端はキャップ状に肥厚する。8胞子を束状に生じる。120-200 × 3.5-4.5 μm. --
子嚢胞子は糸状、無色、薄壁、隔壁は認められず、両端はやや尖る。90-130 × ±1 μm. --
菌核はススキの花穂に生じ、棒状あるいは細いバナナ形で硬い。長さ 4-14 mm.、太さ 1 mm. 程度。わずかに弓形に曲がるものが多く、先端は尖る。
表面は黒褐色、不規則な細かい縦皺があり、部分的に分生子が付着して白粉状になる。
[コメント]
ススキ (Miscanthus sinensis) に生じる。菌核は晩秋から冬頃に良く目立ち、京都ではやや普通で場所によってはかなり多産する。
子嚢、子嚢胞子はプレパラート中では曲がりくねるので、上記計測値はやや正確ではない。
図示した子実体は冬に採集した菌核を湿らせた砂に埋めて発生させたもので、比較的容易に子実体を形成する。
屋外(ベランダの日陰)で自然状態を極力保つようにして観察したところ、子実体の発生は6月に集中した。子嚢胞子の成熟にはさらに2~3週間程かかるようだ。
ススキの出穂時期とは異なるのが少し気になるが、「インターネット版日本植物病害大事典 病害新情報」の
"ススキ類麦角病" にも、
"6~7月に子座を発生し" とある [2023.10.20 閲覧確認] ので、時期を狙って前年に菌核を多産したススキの根際を何度か探索したことがある。
ススキの草叢を掻き分けて虫ピン程の子実体を探すのは想像以上に大変で、いつも早々に心が折れてしまって、自然状態での子嚢果をまだ見つけられない。
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サイト掲載当初、丹田 (1991) に従って Claviceps panicoidearum Tanda & Y. Harada と同定していたもの。
C. panicoidearum は、Tanda and Harada (1989) によってチゴザサ (Isachne globosa) に発生する種として記載され、後に丹田 (1991) は、ススキ類上のバッカクキンも同種とした。
日本産のバッカクキン類は Tanaka et al. (2023) によって再検討され、ススキ上の菌は別種として新種記載されたので訂正した。[2023.11.01 追記]
[別図2]
1月29日撮影。ススキの穂についた状態。方眼は 5 mm.
[別図3]
1月29日撮影。菌核を取り出して並べたもの。
[別図4]
12月4日撮影。
[参考文献]
Tanaka et al. (2023): In search of lost ergots: phylogenetic re-evaluation of Claviceps species in Japan and their biogeographic patterns revealed. (Studies in mycology ; 106, p. 1-39).
Tanda and Harada (1989): Mycological studies on the ergot in Japan (XXII). A new ergot parasitic on Isachne globosa. (Transactions of the Mycological Society of Japan ; 30, p. 105-109).
丹田 (1991): 日本列島所産の麦角(第23報)ススキ属 (Miscanthus) 植物に発生した麦角病菌の諸特徴と分類学的所属の再検討. (東京農業大学農学集報 ; 35, p. 213-229)
[初掲載日: 2005.06.09, 最終更新日: 2023.11.01] //
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