Coccomyces sp. no.1

Coccomyces sp. no.1

Coccomyces sp. no.1
コッコミケス属菌。8月1日撮影。

[特徴]
落葉上の裏面に(稀に表側にも発生する)発生する。白くぬけた病斑中に群生し、隣接する他の菌のコロニーとの境界には明瞭で細い黒褐色の帯線が形成される。 子座は表皮細胞中に生じ、丸みを帯びた3-6角形(4角形と5角形の物が多い)の盛り上がった平盤状で、表面はややつやのある黒色、平滑、成熟すると上面が放射状に裂開して反り返り、子実層を現す。 子実層は半透明、殆んど無色あるいはくすんだクリーム色で(肉眼では底面の暗褐色層が透けて灰色に見えることが多い)ややロウ質、平滑で凸形に盛り上がる。直径 0.7-1.0 mm. 程度。-- 子嚢は長円筒形、薄壁、先端は丸みを帯びた円錐状でメルツァー試薬で呈色しない。基部は小さな球状に膨らむものが多い。8胞子を束状に生じる。128-152 × 5.2-6.3 μm. -- 側糸は子嚢よりわずかに長く糸状、基部付近には分岐と隔壁がある。内容物は一様で、無色またはわずかに黄色味を帯びる。径 1.5 μm. 程度。先端は紡錘形や棍棒状に膨らんで 5.8 μm. までになる。 先端付近は無色のゼラチン状物質に包まれ互いに合着する。-- 子嚢胞子は糸状、無色、隔壁は認められない。射出された胞子は緩やかに屈曲する。先端にはキャップ状の付属物があり釘頭状に見え、末端はやや尖る。全体が薄い被膜に覆われる。97.0-105 × 1.2 μm. 程度。

[コメント]
初夏から秋にかけてツバキの落葉上に発生し、京都付近では普通種である。漂白された病斑の中には褐色で小型点状の柄子殻を伴う事が多いが、分生子(不動精子)を確認できない。 長尾 (1998) は、ツバキ落葉から C. yakushimensis Nagao と C. nipponicum Nagao の2新種を報じたが、どちらも有効なラテン記載は発表されていない。 後に、同氏はいくつかの報文でツバキ落葉上の Coccomyces 菌を2種報じているが、自ら提唱した学名を使用せず、Coccomyces sp. として報告している。(ここでは仮に sp.[A]、sp.[B] として区別する。) 長尾 (2000) の Coccomyces sp.[A] はおそらく C. nipponicum に、長尾・黒木 (2001) の Coccomyces sp.[B] は C. yakushimensis にそれぞれ該当するものだろう。 ツバキ落葉上の同属菌類の生態についてはいくつかの研究があり、 それらの報文中では本州産のものとして Coccomyces sp.、Coccomyces nipponicum、Coccomyces sinensis の学名があてられている。 C. sinensis Lin & Li は、林ら (2000) によって中国の油茶 (Camellia oleifera) から記載された種だが、側糸先端が乳頭状に尖り、不定形物質が付着するという。 これは長尾 (1998) が屋久島産として報告した C. yakushimensis と良く一致する。 丹沢大山総合調査学術報告書 丹沢大山動植物目録 微小菌類(予報)(2007) には、"ヤブツバキ上の Coccomyces sp. は日本の関東地方以西に広く分布し、新種と思われるが、 東日本と西日本(屋久島まで)では別種に分化している可能性が高い" とコメント(担当は勝本謙)されている。 Kirschner et al. (2009) は、台湾から C. sinensis を報告し、"C. nipponicum" は同一種だろうとしているが、報文で図示された側糸は先端が突出しておらず、真の C. sinensis とは少し異なるようだ。 私が京都市内で採集した側糸先端が突出しない標本は Li et al. (2014) によって C. sinensis と同定された。 松倉ら (2013) は、当初 C. sinensis と C. sp. を報告したが、後に松倉 (2017) は C. sp. と Rhytismataceae sp. としている。 若干の疑問が残るが、以下のように整理できそうだ。
・ Coccomyces sp.[A] = Coccomyces nipponicum Nagao, nom. nud.(なお、属名語尾 -myces は男性なので、Coccomyces nipponicus が正しいはず)
・ Coccomyces sp.[B] = Coccomyces sinensis Lin & Li = Coccomyces yakushimensis Nagao, nom. nud.
但し、日本で C. sinensis として報告されたものは、Coccomyces sp.[A] と混同されているおそれがあり、さらに別種が存在する可能性もある。 関西で普通に見られるツバキ落葉上の菌は、"Coccomyces nipponicum" だろう。

[別図2] 8月11日撮影。
[別図3] 7月18日撮影。アルビノと思われる子実体。キノコのアルビノの報告自体が少ないけれども、Coccomyces 類での報告は記憶がない。

[参考文献]
Chen et al. (2011): Species of Rhytismataceae on Camellia spp. from the Chinese mainland. (Mycotaxon ; 118, p. 219-230).
Li et al. (2014): New species and new records of Rhytismataceae from Japan. (Mycological progress ; 13, p. 951-958).
Kirschner et al. (2009): Co-occurrence of Pseudocercospora species and rhytismatalean ascomycetes on maple and camellia in Taiwan. (Mycological progress ; 8, p. 1-8).
長尾 (1998): ツバキ落葉に生じる Coccomyces 2新種について. (日本菌学会大会講演要旨集 ; 42, p. 22).
長尾 (2000): 吹上御苑産チャワンタケ綱 (子嚢菌門). (国立科学博物館専報 ; 34, p. 247-265).
長尾・黒木 (2001): 宮崎県および隣接域の盤菌類 (1). (宮崎県総合博物館研究紀要 ; 22, p. 143-151).
松倉 (2017): ヤブツバキ落葉分解に関わるリティズマ科菌類の生態及び地理的分布に関する研究. (筑波大学博士論文).
松倉ら (2013): ヤブツバキ落葉に定着するリティズマ科菌類の菌糸成長に対する温度の影響. (日本菌学会大会講演要旨集第 ; 57).
林ら (2000): 中国齿裂菌属研究 IV. (菌物系统 ; 20(1), p. 1-7).

[初掲載: 2004.08.07; 最終更新: 2019.07.31] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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