Dicephalospora aurantiaca (Zhuang) Zhuang & Zeng
ディケファロスポラ アウランティアカ。７月３日撮影。

[特徴]
葉柄や葉脈上に発生する。子実体はビョウ形、子嚢盤は径 1 mm. 程度まで、子実層面はオレンジ色、縁は全縁、外面もほぼ同色、平滑。 柄は比較的短く、オレンジ色で子実層よりやや淡色、基部は黒ずみ、子座様の組織がある。-- 子嚢は円筒形、薄壁、先端は肥厚し、頂孔はメルツァー試薬で青変する。基部にかぎ形構造は認められない。８胞子をほぼ２列に生じる。102-110 × 8.2-9.2 μm. -- 側糸は糸状、ほぼ無色、隔壁があり、基部付近で分岐し、径 2 μm. 程度、先端に向かって僅かに太くなって 3.5 μm. 程度までになり、緩やかに曲がるものが多く、黄橙色のヤニ状の物質が付着する。-- 子嚢胞子は両端の丸い長紡錘形、わずかに弓形に湾曲し、無色、薄壁、隔壁は無く、６－８個の油球が一列に並ぶ。 全体に薄い被膜があり、新鮮な標本では子嚢胞子の両端で丸く膨らんで径 3.5 μm. までの帽状になる。22.8-27.2 × 3.7-4.5 μm. -- 托組織髄層は径 3-5 μm. 程度までの無色でやや厚膜の菌糸からなる絡み合い菌糸組織で、黄橙色のヤニ状の物質が付着する。 外皮層は厚さ 60 μm. 程度まで、淡オレンジ色で厚膜、ややガラス様、12-18 × 4-7 μm. 程度の矩形菌糸組織からなり、わずかにゼラチン化しているようにも見える。

[コメント]
主にツブラジイ (Castanopsis cuspidata) の落葉葉柄に発生し、アベマキ (Quercus variabilis) の葉柄や葉脈にも発生する。 被膜両端が帽状に膨らむ子嚢胞子や、托組織の特徴などは Dicephalospora 属に当てはまり、Zhuang et al. (2016) の検索表では Dicephalospora aurantiaca に落ちる。 中国で Lanzia huangshanica f. aurantiaca Zhuang として記載され、 Zhuang and Liu (2007) によって独立種 L. aurantiaca とされ、Zhuang et al. (2016) によって Dicephalospora 属に移されている。 Lanzia huangshanica（基準変種 var. huangshanica、これも現在は Dicephalospora 属とされている）は、日本にも分布していて、 新装版 「きのこ」（山と溪谷社, 2006. p. 295）にオチバノアカビョウタケとして図示されているが、その子嚢盤は赤みが強い。 両種の相違点の一つである子実層面の色は、Zhuang (1994) に拠れば D. huangshanica が "dark red (Ridgway: Spectrum red)"、D. aurantiaca が "orange" なので、採集品は D. aurantiaca に近いと思う。 Zhuang (1994) の原記載を含めて子嚢胞子両端の帽状の被膜について言及した文献を見つけられないが、新鮮な標本では明瞭に確認できる。 若干の疑問が残るけれど、上記の学名を当てておく。なお、中国と日本の Lanzia huangshanica には若干の違いがあるとされる。

[別図２] ８月１６日撮影。アベマキの落葉裏面、主脈上に発生したもの。

[参考文献]
Zheng and Zhuang (2019): Three new species of Dicephalospora from China as revealed by morphological and molecular evidences. (MycoKeys ; 55, p. 87-99).
Zhuang (1994): A few petiole-inhabiting discomycetes in China. (Mycosystema ; 7, p. 13-17).
Zhuang and Liu (2007): Taxonomic reassessment of two taxa of helotialean fungi. (Mycotaxon ; 99, p. 123-131).
Zhuang et al. (2016): Taxonomic revision of the genus Dicephalospora (Helotiales) in China. (Mycosystema ; 35(7), p. 791-801).
長尾・黒木 (2001): 宮崎県および隣接域の盤菌類 (1). (宮崎県総合博物館研究紀要 ; 22, p. 143-151).

[初掲載日: 2021.10.01] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2021.