Discina sp. no.1

Discina sp. no.1

Discina sp. no.1
フクロシトネタケ属菌。4月9日撮影。

[特徴]
子実体は大型の椀形ないし皿形で不規則にゆがむことが多く直径 4-12 cm. 程度までになる。 子実層面は平滑、あるいはやや皺状に波うったり、ちりめん状などになることもある。赤褐色ないし栗褐色。 縁は初めはやや内屈するが、最終的には反り返ることが多い。外面は白っぽくほとんど平滑、縁近くではやや褐色粒状になる。 短く太い柄があり、下面から繋がる不明瞭な皺襞がある。全体にやや脆い肉質。-- 子嚢は円筒形、先端には蓋があり、メルツァー液で呈色しない。8胞子を一列に生じる。350-450 × 16-20 μm. -- 側糸は糸状、分岐し隔壁がある。径 4.0-7.0 μm.、先端は膨らんで 12.0 μm. までになり、細かい淡褐色泡状の内容物がある。-- 子嚢胞子は楕円形で時にやや左右不対称、ほぼ無色、両端には円錐状突起があり、表面全体に比較的大型で高い疣状ないし短い脈状あるいは不完全な網状に見える突起がある。 油球は3個が目立ち、中央に大きな油球とその両脇に小さな油球がある。両端の突起を除いて 25.0-29.0 × 11.2-13.6 μm.、突起を含めると 32.0-37.2 μm. -- 托組織はほぼ全体が径 8-15 μm. 程度の無色の菌糸からなる絡み合い菌組織で、 表面近くではやや密になるが境界は不明瞭。表面からは先端の膨らんだ菌糸が短く立ち上がることがある。

[コメント]
春に針葉樹の朽木に発生する大型種。伐採後放置されたスギにもよく発生している。 未熟な子嚢胞子は平滑で両端に饅頭形の付属物がある。 成熟すると両端の付属物は尖り、胞子表面の突起は疣状から脈状さらにはやや網目状になるが、外国の多くの文献では Discina perlata の胞子はほぼ平滑あるいは微疣状とする。 また発生場所も主に地上、とあるので D. perlata の学名をあてる事には疑問が残る。 一つの子実体の中でも子嚢胞子表面の模様の変異は大きく、子嚢胞子の成熟にはかなり日数がかかるので、成熟度による違いのようにも見える。 肉眼的には子実体がやや小型のものと大型のものが区別できそうだしその他の特徴も微妙に異なるので、いくつかの種を区別する方が良いと思う。 ここでは主に針葉樹の朽木に発生し、子嚢胞子が粗面で両端に円錐状突起があるものを広義のフクロシトネタケとしておく。 Gyromitra 属に含めて Gyromitra perlata (Fr.) Harmaja とする事も多い。
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従来日本の図鑑で、子嚢胞子の表面が疣状で両端に円錐形の突起を持つ Discina 属菌に D. perlata の学名が当てられてきた。 一方、ヨーロッパの D. perlata の子嚢胞子はほとんど平滑あるいは微疣状で、このような大型の疣状ではないとされる。 最近、フクロシトネタケ科 (Discinaceae) について複数の論文が発表され、 Wang et al. (2023) は、Gyromitra 属を分割し、Discina 属を復活させている。日本産の同科の種についても、新種や学名の変更などが発表されている。 全てをフォローできていないが、どうやら京都で春に針葉樹の朽木に良く見られるこの菌は真正の D. perlata ではなさそうなので、とりあえず Discina 属の一種とするに留めることにした。 「北陸のきのこ図版」 (池田, 2005) で図示されている子嚢胞子は、かなり大きな角錐状の突起があり、おそらく京都産の菌と同じものだろう。 「日本きのこ図版」 では D. perlata はナミチャワンタケの名前で no.492 (1970) と no. 1036 (1979) で取り上げられている。 no. 492 では、子嚢胞子はかなり細かい疣状に描かれているが、no. 1036 では "しわ状に盛り上った不規則な陵条[ママ]" と訂正されていて、私の観察と一致する。 no. 492 で疣状と判断した理由を "染色しないで見たため" としているが、成熟した子嚢胞子は無染色でも明瞭に大型の突起が観察できるので、未熟な子実体による観察だった可能性がある。 Otani (1979) は、"warted when fully matured" として比較的細かい疣状の子嚢胞子を図示しているし、Cho et al. (2021) は、 韓国産の子嚢胞子が平滑な菌を Gyromitra aff. perlata と同定しているので、日本にも D. perlata あるいは未知種が分布しているかどうかは検討の余地があると思う。[2025.05.20 追記]

[別図2] 5月5日撮影。

[参考文献]
Abbott and Currah (1997): The Helvellacaea : systematic revision and occurrence in northern and northwestern North America. (Mycotaxon ; 62, p. 1-125).
Breitenbach and Kränzlin (1984): Fungi of Switzerland. v. 1.
Cho et al. (2021): Taxonomic re-evaluation of Korean Gyromitra species based on morphological and phylogenetical studies. (Korean journal of mycology ; 49(3), p. 363-371).
McKnight (1969): A notes on Discina. (Mycologia ; 61. p. 614-630).
Otani (1979): Notes on some interesting cup-fungi in Tsukuba Academic New Town. (Bull. Natn. Sci. Mus., Ser. B (Bot.) ; 5(2), p. 51-60 + 1 plate).
Van Vooren and Moreau (2009): Essai taxinomique sur le genre Gyromitra Fr. sensu lato (Pezizales) 3. Le genre Gyromitra Fr., sous-genre Discina. (Ascomycete.org ; 1(2), p. 3-13).
Wang et al. (2023): Phylogeny and taxonomic revision of the family Discinaceae (Pezizales, Ascomycota). (Microbiology spectrum ; 11(3), e00207-23).

[初掲載日: 2005.04.12, 最終更新日: 2025.05.20]
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