Dysrhynchis uncinata (Sydow) Arx
ディスリンキス ウンキナタ。11月27日撮影。
[特徴]
生葉表面に生じる。菌叢はまばらな黒斑状、線状、細楕円ないし紡錘形等で 2-5 × 1-2 mm. 程度、時に融合して拡がり、ルーペ下では粗毛状に見える。
表面菌糸は曲がりくねって粗く拡がり、黒褐色、厚膜、平滑、隔壁があり、径 4.5-6 μm.、隔壁部はやや括れる。菌足は見られず、剛毛を生じる。--
子嚢殻は表面菌糸から生じる短い分岐の先端に形成され、球形ないし広卵形、褐色、径 50-80 μm.、表面は径 5-10 μm. 程度の多角形細胞からなり、ほぼ平滑あるいは細かい点刻状の粗面。
顕著な孔口は観察できない。子嚢殻に形成される子嚢はおそらく一個。--
子嚢は亜球形ないし広楕円形、やや厚膜、8胞子を生じる。34-38 × 25-28 μm. --
子嚢胞子は楕円形、ほぼ中央に隔壁があり2細胞、隔壁部は僅かに括れる。2細胞はほぼ同大あるいは一方がわずかに太く短い。
初め無色のち淡褐色、やや厚膜、平滑、大きな油球を1個含むものが多い。 26.3-27 × 11-11.5 μm. --
剛毛は表面菌糸から生じ、基部で折れ曲がって立ち上がる。普通は直線的、黒褐色、厚膜、平滑、隔壁があり、長さ 150-280 μm.、基部付近で径 7-8.5 μm.、先端付近で径 3 μm. 程度、先端はやや尖る。
[コメント]
未同定のササ類生葉に発生していたもの。子嚢殻内の子嚢の数を正確に観察できなかったが、周囲に放出された子嚢胞子の数から、おそらく一個と思われる。
プレパラートを作って顕微鏡で覗いた時に、似た菌が Hino (1961) の図にあったはず、と思った。
調べてみると、p. 102 の Dimerosporina arundinariae Hino et Katumoto と、p. 124 の Kusanobotrys bambusae P. Hennings の図が似ている。
D. arundinariae は裏面性とあるし、子嚢胞子も大きいので違うだろう。
K. bambusae は記述がほぼ一致する。そこで 「植物病原菌類図説」 (1992) を見ると、両種が p. 206-207 に並んでいるのだが、
K. bambusae の図がまるで別物になっていて、その図は Hino (1961)、p. 107 の Parodiopsis gregaria Hino et Katumoto と同じだ。
訳が解らなくなって 「日本産菌類集覧」 (勝本, 2010) を見ると、以下の様になっている。(ここでの説明に不要と思われる行は省略した)
Dimerosporina Höhn., Sitzungsb. K. Akad. Wiss. Wien, Math.-nat. Kl. 1 Abt. 119:910, 1910. → Dysrhynchis
-arundinariae (I.Hino & Katum.) I. Hino & Katum. in Hino, Icon. Fung. Bamb. Japonic. 102, 1961.
ネザサ・メダケ(すす病)
Dysrhynchis Clem., Genera of Fungi 32, 1909.
-uncinata (Syd. & P.Syd.) Arx in E.Müller & Arx, Beitr. Kryptogamenfl. Schw. 11(2):191, 1962.
【誤適用】 Kusanobotrys bambusae [non Henn.] sens I.Hino & Katumoto, Bull. Fac. Agric. Yamaguti Univ. 5:218, 1954. (日本竹菌図説 124, 1961)
クマザサ, ネザサ
Kusanobotrys Henn., Hedwigia 43:141, 1904.
-bambusae Henn., Hedwigia 43:141, 1904.
= Parodiopsis gregaria I.Hino & Katum., Bull. Fac. Agric. Yamaguti Univ. 9:881, 1958. [Holotype: YAM-21833] (日本竹菌図説 107, 1961)
[日本害菌学 154,1936; 日菌報 1(3):4, 1957]
ネザサ・クマザサ・チシマザサ(すす病)
-bambusae [non Henn.] sensu I.Hino & Katumoto → Dysrhynchis uncinata
Hennings による K. bambusae の原記載など、いくつかの文献を確認してみると、
Hino (1961) が Parodiopsis gregaria としている菌は K. bambusae で、K. bambusae としている菌は Dysrhynchis uncinata であるらしい。
Dimerosporina 属は無色の子嚢胞子によって、暗色の子嚢胞子を生じる Dysrhynchis 属とは区別された。
Müller and Arx (1962) は Dimerosporina を Dysrhynchis のシノニムとしているが、「植物病原菌類図説」 では別属扱いになっている。
菌叢は葉の表面側にしか観察できなかった。
Hosagoudar and Thomas (2009) は、菌叢を "hypophyllous"(裏面性)とし、
Hansford (Meliolinella uncinata (Syd.) Hansf., Sydowia ; 9, p. 85. 1955) は "amphigenous"(両面性)としていて、少し気になる。
[参考文献]
Hino (1961): Icones fungorum bambusicolorum Japonicorum [日本竹菌図説].
Hosagoudar and Thomas (2009): The genus Dysrhynchis in India. (Indian journal of science and technology ; 2(6), p. 10-11).
Müller and Arx (1962): Die Gattung der didymosporen Pyrenomyceten. (Beiträge zur Kryptogamenflora der Schweiz ; 11(2), p. 5-992).
原 (1957): 竹類に寄生する子嚢菌類、その1. (日本菌学会会報 ; 3, p. 1-5).
[初掲載日: 2024.04.05] //
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