Golovinomyces sordidus

Golovinomyces sordidus

Golovinomyces sordidus (Junell) Heluta
オオバコうどんこ病菌。11月6日撮影。

[特徴]
菌叢は葉や葉柄の主に表面に生じ、花茎にも生じる。初め白粉斑点状、後にはほぼ全面に拡がる。 菌糸は永存性、薄壁、隔壁があり、径 5-6 μm. 程度、乳頭状ないし楕円形の付着器がまばらにある。-- 分生子柄は直立し、円筒状、径 10-13 μm.、高さは 100 μm. 程度までになり、分生子を少数鎖生する。 分生子は両端がやや平らな長たる形、無色、薄壁、平滑、フィブロシン体を含まず、液胞が多い。31-38 × 17-20 μm. -- 裂子嚢殻は菌叢中に散生ないし群生し、やや平たい球形、黄色から茶褐色を経て黒褐色になり、径 100-120 μm.、表面は径 6-12 μm. の厚膜、黒褐色の多角形細胞からなり、8-10個程度の子嚢を生じる。 附属糸は数十本程度、周囲に放射状に伸び、菌糸状、少数の隔壁があり、基部付近では淡褐色厚膜、先端に向かって淡色薄壁になり、先端は丸い。 殆んど分岐せず、不規則に屈曲し、表面には細かな砂状の結晶物が付着する。径 4.5-6.5 μm.、正確な全長は測定しがたいが、120-200 μm. 程度まで。-- 子嚢は広卵形、やや厚膜、短柄がある。普通は2個の子嚢胞子を生じる。56-62 × 32-38 μm. -- 子嚢胞子は広楕円形、僅かに黄色味を帯び、薄壁、平滑、内容物は泡状、26-30 × 14-17 μm.

[コメント]
オオバコ (Plantago asiatica) に発生し、市街地の路傍などに普通。 ゴロヴィノミケス属 Golovinomyces (U. Braun) Heluta は、Erysiphe 属の Golovinomyces 節が Heluta によって属に格上げされたもので、 付着器は単純な乳頭状、分生子は鎖生、子嚢胞子は子嚢中に2-3個、などを主な特徴とする。
ところで、高松 (2012) や Mycobank, Index Fungorum 等では著者名は "Heluta"、Dictionary of the fungi (10th ed., 2008) では著者名が "Gelyuta" となっていて少し戸惑う。 母国語の表記がキリル文字であるウクライナの研究者 В.П. Гелюта のローマ字翻字表記の揺れだ。 いくつかの論文でどのように引用されているか調べてみたが、どちらの表記もあり、"Geljuta" としている文献もある。 学名の著者名表記について、命名規約には 「原発表で用いられている著者のローマ字表記を通常は受け入れるべき」 で、 ローマ字でないとき、あるいは時によって表記が異なる場合は 「その著者が好んだことがわかっている」 あるいは 「最も多く用いている」 ローマ字表記を採用するべき(深圳規約 勧告46B)とある。 ゴロヴィノミケス属の原発表 (Биологический журнал Армении ; 41(1), p. 357, 1988) を確認できていないが、本人は少なくとも最近の英語の論文では Heluta の表記を常用しているようだ。 ウクライナ国立アカデミー植物学研究所のサイトにある 研究者紹介 [2021.11.11 閲覧確認] では、ローマ字表記は Vasyl Heluta となっていて、他に Geluta、Gelyuta、Geljuta、Helyuta、Heliuta 等の表記も使用しているらしい。 うどんこ病菌を概説した高松 (2002) では Geljuta、同 (2012) では Heluta と表記されている。 現在 Heluta を採用している Index Fungorum も、同サイト内で公開されている菌類命名者リスト 「Authors of fungal names」 では Gelyuta となっている。 このリストはどうやら2003年頃で更新が止まっているようだし、2010年頃には Heluta が一般的表記として定着したのか、と思う。ご存知の方は教えてほしい。

[参考文献]
Junell (1965): Nomenclatural remarks on some species of Erysiphaceae. (Transactions of the British Mycological Society ; 48(4), p. 539-548).
大谷 (1988): 日本菌類誌. 第3巻 子のう菌類. 第2号 ホネタケ目・ユーロチウム目・ハチノスカビ目・ミクロアスクス目・オフィオストマキン目・ツチダンゴキン目・ウドンコキン目.
高松 (2002): うどんこ病菌の分子系統と新しい分類体系. (植物防疫 ; 56(6), p. 229-237).
高松 (2012): 2012年に発行される新モノグラフにおけるうどんこ病菌分類体系改訂の概説. (三重大学大学院生物資源学研究科紀要 ; 38, p. 1-73).

[初掲載日: 2021.11.19] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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