Helvella elastica

Helvella elastica

Helvella elastica Bull.: Fr.
アシボソノボリリュウ。9月8日撮影。

[特徴]
子実体は地上に孤生あるいは少数が群生する。子実層のある頭部と柄からなる。 頭部は典型的には鞍形だが不規則に膨らんだり押し潰されたようになっている場合が多い。 直径 1-3 cm.、厚さは 1.5 mm. 程度。子実層面は平滑、薄いねずみ色や淡黄褐色、黄土色など比較的変異が大きい。 縁は全縁で反り返り、互いに接した部分は癒着する場合があるが、普通は柄とは癒着しない。裏面は白っぽく、平滑。 柄は中心生で円柱形だがところどころ押しつぶされたようになる事もある。ほとんど平滑ないし微毛状でクリーム色から淡黄土色、基部付近は殆んど白色。古くなると所々が赤みを帯びたしみ状になることがある。 内部は乳白色の髄状、時に中空。直径 3-8 mm.、高さは 10 cm. を超えることもあるが普通は 5-6 cm. 程度まで。-- 子嚢は円筒形、薄壁、先端には蓋があり、メルツァー液で呈色しない。8胞子を一列に生じる。280-340 × 17-23 μm. -- 側糸は糸状、基部で分岐し、隔壁があり無色。径 3-4 μm.、先端は次第に膨らんで 7-8 μm. になり、先端細胞には無色の泡状内容物がある。-- 子嚢胞子は広楕円形、無色、平滑。中央に大きな油球が一つと両側に細かい泡状物が少数ある。20.8-21.8 × 12.0-13.8 μm. -- 托組織髄層は径 3-8 μm. 程度の無色の菌糸からなる密な絡み合い菌糸組織で、所々に 15 μm. 程度にまで膨らむ細胞が混じる。 外皮層は厚さ 150 μm. 程度まで、やや柵状に並ぶ無色薄壁の細胞からなる。細胞は角ばった楕円形ないし長円形、20-58 × 8-28 μm.、 最外層の細胞は棍棒形ないし電球形、22-35 × 11-23 μm.

[コメント]
夏から秋にかけて林内の地上などに発生する。石灰質土壌に生えるものは紫色を帯びるという。掲載したものは庭園に発生したもので少し若い子実体。 京都近郊では比較的少ないようである。Skrede et al. (2017) は、ヨーロッパの Helvella elastica について "Subhymenium and medullary excipulum of highly gelatinous hyphae, embedded in an amorphic gelatinous matrix" としているが、ゼラチン質について明瞭に確認できない。 子実層の色が柄に比べて明らかに濃く、柄の表面がほとんど平滑なものや、子実層と柄が殆ど同色で、柄の表面が微毛状のもの等があり、あるいは別種かもしれない。 ここでは H. elastica としてまとめておく。Imai (1935, 1954) は以下の4品種を認めている。
・頭部が淡褐色ないし褐色のもの: forma pallide-fuliginea Imai = アシボソノボリリュウ。
・頭部が淡黄色のもの: forma gracilis (Peck) Imai = キアシボソノボリリュウ。
・頭部が淡灰褐色で下面が粉状になるもの: forma panormitanoides Minakata = アラゲアシボソノボリリュウ。
・大型で高さ 15 cm. に達するもの: forma gigantea Seaver = オオアシボソノボリリュウ。
この中では forma pallide-fuliginea がもっとも普通、としている。
各品種について触れている文献は少ないが、「おいしいきのこ毒きのこハンディ図鑑」(主婦の友社, 2016) は、アシボソノボリリュウタケの項目で "カサの裏に毛がある品種" をウラゲアシボソノボリリュウタケ (forma panormitanoides) として挙げている。 この和名の初出と思われる今井 (1935) では、ウラゲアシボソノボリリョウ(この報文中では、"~ノボリリュウ" はすべて "~ノボリリョウ" と表記されている)となっている。 一方、Imai (1954) の表記はアラゲアシボソノボリリュウ (Arage-ashibosonoboriryu) であり、「南方熊楠菌誌」(1987、解説は大谷吉雄)でもアラゲアシボソノボリリュウとされているが、 後に大谷 (1989) は "アラゲ" は誤植、と判断している。裏面に粉状の毛がある、という特徴から "ウラゲ" が妥当だと思う。 この品種について Van Vooren (2010) は、H. ephippium だろうとしているが、「南方熊楠菌誌」の記述 (F1061) からは判断が付きかねる。

[別図2] 9月3日撮影。柄の表面が微毛状のもの。
[別図3] 11月26日撮影。京都で晩秋に発生する、柄の表面が微毛状のもの。微毛は鎖状に繋がったやや膨らんだ円筒形ないし長楕円形の細胞の束からなり、全長 200 μm. 程度までになる。 各細胞は 14-35 × 5.6-11.0 μm. でやや厚膜、先端細胞は棍棒形ないし紡錘形。

[参考文献]
Abbott and Currah (1997): The Helvellaceae: systematic revision and occurrence in northern and northwestern North America. (Mycotaxon ; 62, p. 1-125).
Dennis (1981): British Ascomycetes. Rev. ed.
Dissing (1966): The genus Helvella in Europe with special emphasis on the species found in Norden. (Dansk botanik arkiv ; 25(1), p. 1-172)
Imai (1954): Elvellaceae Japoniae. (Science reports of the Yokohama National University ; 2(3), p. 1-35).
Skrede et al. (2017): A synopsis of the saddle fungi (Helvella: Ascomycota) in Europe – species delimitation, taxonomy and typification. (Persoonia ; 39, p. 201-253).
Van Vooren (2010): Notes sur le genre Helvella L. (Ascomycota, Pezizales). 1. Le sous-genre Elasticae. (Bull. mycol. bot. Dauphiné-Savoie ; 199, p. 27-60).
今井 (1935): 昇龍菌科の分類と其の邦産の種類 IV. (植物及動物 ; 3(12), p. 2115-2120).
大谷 (1989): 日本産盤菌綱菌類目録と文献. (横須賀市博物館研究報告(自然科学); 37, p. 61-81).

[初掲載日: 2007.01.15, 最終更新日: 2020.12.07] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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