Helvella sp. no.5
Helvella sp. no.5.
ノボリリュウ属菌。7月2日撮影。
[特徴]
子実体は子実層の形成される頭部と柄からなる。
頭部は不正形な鞍形(稀に釣鐘状)で直径 1.5-4 cm.、反転して柄の上部を包む。子実層面は平滑あるいは浅い凹凸のしわがある脳状、淡灰色や薄墨色、時に部分的に黒っぽいしみ状になる。
縁は全縁で外に反りかえり、互いにあるいは柄に接した部分は癒着する。
裏面は淡灰色から乳白色で子実層面より僅かに淡色、無毛、平滑、柄から繋がる脈状の隆起が僅かに伸び、時にちりめん状の皺になる。肉は薄い。
柄も淡灰色、基部付近はほとんど白色になる。表面は平滑、無毛、高さ 3-7 cm. 程度。
横断面は不規則な2叉分枝が反復する樹枝状で、外観では縦の畝状の隆起が顕著で、基部は細まる。最大幅 1.5 cm. 程度まで。--
子嚢は円筒形、薄壁、先端は有蓋でメルツァー試薬に呈色せず、下半は次第に細くなり、末端は膨らんで2叉状になる。8胞子を一列に生じる。210-280 × 14-18 μm. --
側糸は糸状、径 2.5-3.0 μm.、隔壁があり先端はやや膨らんで棍棒状になり径 6-8 μm. 程度、内容物はほぼ一様で無色。--
子嚢胞子は広楕円形、無色、薄壁、平滑、16.5-18.0 × 10-11.5 μm.、中央に大きな油球を一個含む。--
托組織髄層はやや密で無色、径 2.5-4.5 μm. の菌糸からなる絡み合い菌組織。
外被層は厚さ 80 μm. 程度まで、1-2層の縦長の細胞からなり、最外層の細胞は棍棒形や長電球形で柵状に並び、やや厚膜、ほとんど無色、20-60 × 8-25 μm.
[コメント]
初夏から秋頃にかけて林内地上に単生あるいは散生する。
腐朽の進んだ朽木上も発生することも多く、その場合は朽木中に白色の菌糸束が根状に伸びるのが観察できる。少なくとも京都付近の雑木林ではかなり普通。
同じ環境に発生するクロノボリリュウ(と思っているキノコ。真正の Helvella lacunosa ではなさそう。)と比べると子実層面が淡色で、
やや大型になることが多く、全体に肉薄で脆弱な感じがする。子実層面は生時は淡灰色だが、乾燥標本にするとベージュ色ないし淡黄褐色になる。
子嚢盤が鞍形で淡色、外面が無毛、柄には縦溝がある、という特徴を併せ持つ Helvella 属菌はいくつかある。
クロノボリリュウ(広義)の淡色型かも知れないが、肉眼的特徴がこれと同じで子実層面が黒色のものを見たことが無く、よく判らない。
国内外で従来 Helvella lacunosa として示されているものには色や形が様々のものがあり、複合種の様だ。
その中にはこれに似た淡色のものもあり、欧米産のものは最近複数種に細分されている。中国からもいくつか近似種が報告されていて Helvella sublactea は似ていると思う。
Skrede et al. (2017) に "H. lacunosa morphospecies complex ... greyish hymenium and stipe when fresh" とある Helvella sp. 'JAPAN 5' だろうか。
[参考文献]
Skrede et al. (2017): A synopsis of the saddle fungi (Helvella: Ascomycota) in Europe - species delimitation, taxonomy and typification. (Persoonia ; 39, p. 201-253).
Nguyen et al. (2013): The Helvella lacunosa species complex in western North America: cryptic species, misapplied names and parasites. (Mycologia ; 105(5), p. 1275-1286).
Wang et al. (2016): Helvella sublactea sp. nov. (Helvellaceae) from southwestern China. (Phytotaxa ; 253(2), p. 131-138).
[初掲載日: 2018.10.19]