Leotia rutilans
Leotia rutilans (Imai & Minakata) Imai
アカズキンタケ。8月13日撮影。
[特徴]
地上に散生ないしやや群生する。子実体は子実層のある頭部と柄からなる。
頭部は不正半球形、瘤状、丸山形等で径 5-10 mm.、表面は平滑あるいは僅かに皺状になる。
赤褐色ないし汚ワイン色。縁は裏側に巻きこまれる。
柄は円柱状で時に扁平になり、ほぼ上下同幅、径 2-4 mm.、高さは 3 cm. 程度に達する。普通は分岐しない。
表面は淡赤褐色、やや大型で淡色の毛羽立った感じの粗い鱗被がある。中実で全体に比較的丈夫なゼラチン質だが粘性は無い。--
子嚢は棍棒形、薄壁、先端は僅かに肥厚し頂孔はメルツァー試薬に呈色しない。
8胞子を初めは一列に生じるが、後には上半はほぼ2列になる。125-158 × 11.5-13.8 μm. --
側糸は糸状、隔壁があり、上半では分岐しない。
ほぼ一様な淡褐色、径 2 μm. 程度、子嚢よりやや長く、先端付近は僅かに膨らんで 3.5 μm. までになり丸く屈曲する。--
子嚢胞子は両端の丸い紡錘形、僅かに曲がって左右不対称になるものが多い。
無色、薄壁、平滑、内容物は4あるいは6個の大きな油球が目立ち、射出時には隔壁は見られない。16.5-25.7 × 5.1-5.7 μm. --
托組織髄層は無色薄壁、径 2.8-4.4 μm. の菌糸からなる疎な絡み合い菌組織で、ゼラチン質に包まれる。
外皮層は淡褐色の平行な菌糸からなる厚さ 50-80 μm. の内層と、
ゼラチン質に包まれた隔壁のある曲がりくねった径 2-4 μm. の菌糸からなる厚さ 200 μm. を超える外層に分かれる。
外層の菌糸は分岐があり、時に吻合し、また結節状になる。
先端はやや膨らんで径 6.5 μm. までの棍棒状になり、所々で房状に絡まって集まり表面から立ちあがる。
立ち上がった菌糸の表面には黄褐色のかさぶた状の物質が付着する。
[コメント]
照葉樹林内のコケの生えた地上に発生していたもの。
100年以上前に南方熊楠によって和歌山で採集された標本を基に今井三子が記載した種で、特徴が良く一致する。
この学名や和名を引用した文献はいくつかあるが、原記載の線画以外に子実体を図示したものが見当たらず、インターネット上にも殆んど情報が無い。
海外では Shah-Smith (1998) によって遠くザンビアから記録されている。
Imai (1941) は、新鮮な子嚢胞子には1ないし2個の油球があるという南方の観察(小林義雄編、南方熊楠菌誌の番号 F523 にも南方自身による同一の記述 "1-2-guttate" がある)を記録しているが、
私の採集品ではズキンタケ (Leotia lubrica) と同様に4個の大きな油球を含む子嚢胞子が多かった。
頭部が赤褐色のズキンタケ属菌として Leotia castanea Teng が中国南京から記録されていて、肉眼的特徴、子嚢や子嚢胞子の大きさは L. rutilans とほぼ同じである。
側糸に関しても Teng (1932) の原記載では "paraphysibus filiformibus"、
添えられた英文では "paraphyses filiform, the apices slightly thickened, 3μ thick, hyaline" とあるが、
Teng (1996) では "paraphyses filiform, curved, pale brown and slightly thickened at apex, 3-4μm diam." となっていて、L. rutilans と良く似ている。
両種ともに情報の少ない菌だが、同種かも知れないと思う。
[別図2]
同日撮影。コケ上に並べたもの。
[参考文献]
Imai (1934): Studies on the Geoglossaceae of Japan. (Trans. Sapporo Nat. His. Soc. ; 13, p. 179-184).
Imai (1941): Geoglossaceae Japoniae. (J. of the Fac. of Agr., Hokkaido Imp. Univ. ; 45(4), p. 155-264).
Shah-Smith (1998): A preliminary checklist of macrofungi from the North Luangwa National Park, Zambia. (Kirkia ; 17(1), p. 85-107).
Teng (1932): Fungi of Nanking I. (Contributions from the Biological Laboratory of the Science Society of China. Botanical series ; 7(4), p. 85-127).
Teng (1996): Fungi of China.
[初掲載日: 2017.09.08]