Leotia cf. viscosa

Leotia viscosa

Leotia cf. viscosa Fr.
アカエノズキンタケ。9月22日撮影。

[特徴]
子実体は有柄、子実層のある頭部と柄よりなり、全体がゼラチン質。 頭部は半球形ないし拳状等で径 1 cm. 程度まで、縁は時に反転する。表面はほとんど平滑で暗緑色、粘性は無い。 柄は円柱状、時にやや扁平になり高さ 2-4 cm.、径 2-7 mm.、中実、黄橙色、表面は湿時粘性がありほとんど平滑、僅かに粒状の鱗片が散在する。-- 子嚢は棍棒形、先端はやや肥厚しメルツァー試薬に呈色せず、基部にはかぎ型構造がある。8胞子を初め一列に生じるが、後にはほぼ2列になって先に固まる。155-180 × 11.5-14.7 μm. -- 側糸は糸状、隔壁があり基部近くで分岐する。径 1-1.5 μm. 程度。先端は膨らんで 3.4-5.7 μm. までになり、 ほとんど無色だが先端付近は淡緑色の不定形ヤニ状物質に薄く覆われる。-- 子嚢胞子は長紡錘形、無色、平滑、両端は丸く、やや左右不対称または弓形になり、内容物は4個(時に6個)の一列の油球が目立つ。17.2-24.6 × 4.3-6.0 μm. -- 柄組織髄層はゼラチン質に包まれたやや平行な絡み合い菌糸組織。薄壁、無色で隔壁があり分岐の少ない径 2.8-4.2 μm. の菌糸よりなる。 外皮層内側は厚さ 200-400 μm.、ほとんど無色、薄壁の矩形状の細胞からなり、30-50 × 9-12 μm. 程度、外側ほど細くなり、やや橙色を帯びる。 外側はゼラチン質に覆われた径 2.5-3.5 μm. の無色薄壁の菌糸からなる疎な絡み合い菌糸組織で、表面の所々で径 9 μm. までに膨らんで房状に絡み合って盛り上がり、結晶状の付着物で粗面に見える。

[コメント]
秋頃、広葉樹林内の地上に単生あるいは数本が固まって生じるが、京都付近では比較的少ない。ズキンタケ (L. lubrica) とは暗緑色の頭部や橙色の柄で区別できる。 日本の図鑑でよく使用されているアカエノズキンタケの学名 L. stipitata (Bosc) Schröt. は L. viscosa Fr. のシノニムとされることが多く、ネット上で見られる L. viscosa の画像は確かに特徴がよく似ている。 Leotia 属のキノコは多くの品種が命名されているズキンタケも含めて、まだ検討の余地が残されている様である。ここでは L. viscosa Fr. あるいはその近似種として扱っておく。
頭部が緑色の種は他にアオガシラズキンタケ (L. lubrica f. kawamurae Imai) がある。 大谷 (1989) には L. kawamurae (Imai) Otani の組み合わせで挙げられているが、どうやら裸名のままのようである。 最近の図鑑では新版北海道きのこ図鑑増補版(高橋郁雄著. 亜璃西社, 2007, p. 309)に写真が掲載されているが、 頭部が暗緑色で柄が黄橙色をしたズキンタケ類であり、写真で見る限りアカエノズキンタケとの区別は困難に思える。 原色版日本菌類圖図説(川村, 1929)で、川村は碓氷峠で昭和2年10月17日に原寛によって採集されたものをアオガシラズキンタケと名付け、L. chlorocephala Schwein. の学名をあてて図示し、 「茎は... 白色にして微細なる黒点を密布す」と記し、原色日本菌類図鑑(同, 1954)では同一の標本(図版)を基に「茎は ... 白色で微に淡黄色を帯び、暗緑色又は黒色の細点を密布」と記している。 Imai (1936) はアオガシラズキンタケの特徴を「茎部白色乃至淡黄色」とし、L. lubrica f. viscosa (Fr.) Imai の学名があてている。 後に Imai (1941) は、この学名を柄が黄色のものに限定し、柄が白色のものに対して新たな品種 L. lubrica f. kawamurae Imai を命名した。 Seaver (1951) は、L. viscosa Fr. を L. stipitata (Bosc) Schröt. のシノニムとし、"stem ... usually pure-white, or less often with an ochraceous or orange tint ..." としている。 Mains (1956) は、逆に L. stipitata Schroeter を L. viscosa Fr. のシノニムとし、"stipes ... white, yellow or orange, green-punctate or furfuracesous" としている。 学名はさておき、頭部が緑色のものを Seaver や Mains は同一視し、今井は柄が黄色のものをアカエノズキンタケ、白色のものをアオガシラズキンタケとして区別したことになるだろう。 群生するアカエノズキンタケの中に、柄が殆んど白色のものが混じって発生する事があり、一見アルビノの子実体のようにも思え、これがアオガシラズキンタケにあたるものだとすれば、単に柄の色素異常かもしれない。

[別図2] 9月23日撮影。柄が殆んど白色のもの。柄が黄橙色の子実体に交じって発生する。このアカエノズキンタケの坪には毎年多くの子実体が発生するが、時々この淡色の子実体が少数混生する。

[参考文献]
Imai (1936): Studies on the Geoglossaceae of Japan. II. (Bot. Mag. ; 50. p. 9-16).
Imai (1941): Geoglossaceae Japoniae. (Journal of the Faculty of Agriculture, Hokkaido Imperial University ; 45(4). p. 155-264).
Mains (1956): North American species of the Geoglossaceae. Tribe Cudonieae. (Mycologia ; 48. p. 694-710).
Seaver (1951): The North American cup-fungi. (Inoperculates). 428 pp. + 150 plates.
大谷 (1989): 日本産盤菌綱菌類目録と文献. (横須賀市博物館研究報告(自然科学). no. 37. p. 61-81).

[初掲載日: 2019.11.19] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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