Lophodermium sp. no.12

Lophodermium sp. no.12

Lophodermium sp. no.12
ロフォデルミウム属菌。4月29日撮影。

[特徴]
子実体は落葉上に散生する。子実体周辺は淡黄褐色に脱色し、健全部とは黒色の帯線で区切られる。また、脱色部の子実体間にも時に不明瞭な淡褐色の帯線がある。 子嚢盤は葉の表面側、表皮細胞中に発達し、両端のやや丸い紡錘形ないし長楕円形、黒褐色、1.2 × 0.5 mm. 程度まで、上面中央に全長に亘るスリットがあり、成熟後は開口し子実層が現れる。 子実層は肉眼では暗灰色、開口した縁部はわずかに盛り上がって暗褐色に見える。-- 子嚢は紡錘形、先端は肥厚せず、メルツァー試薬に呈色しない。下半は細長く伸びて尾状になる。8胞子を不規則な束状に生じる。110-126 × 10.5-11.8 μm. -- 側糸は糸状、下半には隔壁が多く、径 1.8-2.5 μm.、上半はやや屈曲して膨らみ、径 2.8-3.5 μm.、内容は無色。-- 子嚢胞子は糸状で緩やかに屈曲して弓形、無色、薄壁、平滑、先端側は丸く、末端側はやや細まる。内容は泡状。全体に厚さ 2 μm. 程度までになる被膜がある。48-60 × 2.2-2.6 μm. -- 子嚢盤底部は厚さ 15 μm. 程度、黒褐色で径 4 μm. 程度までの多角形細胞からなる。 殻皮もほぼ同様の細胞からなり、開口部では厚さ 60 μm. 程度、明瞭な舌状細胞は見られないが、表面にはやや丸みを帯びた淡色の細胞が並ぶ。-- 子嚢盤周辺の葉の両面には微小な分生子殻が散在するが、詳細な構造や分生子を観察できなかった。

[コメント]
モミ (Abies firma) の落葉に発生していたもの。 大谷 (1989) に挙げられた Lophodermium 属菌で、モミ属からの記録のあるのは Lophodermium abietis Rostrup と Lophodermium piceae (Fuckel) Höhnel だが、 Darker (1932) は、L. abietis を L. piceae のシノニムとしており、日本産菌類集覧 (勝本, 2010) でも同様に異名参照されている。 L. abietis として言及している国内の文献として、亀井・井上 (1959)、北島 (1942)、伊藤 (1961,1973) を当たったが、記述が簡単で判然としない。 亀井・井上 (1959) は学名に疑問符を付している。 伊藤 (1961) では、"はじめ葉の表面に黄色の微粒点を散生し、後に裏面に楕円形~円形、黒色の菌体を生ずる" とあり、伊藤 (1973) も解説は同様だが、学名には疑問符を付している。 L. piceae の学名で報告している文献でも、名前が挙げられているのみで形態の詳細な記述は無い。 海外では、Osorio and Stephen (1990) が過去の文献の L. piceae の記述の比較検討をしており、 また Osorio and Stephen (1991) には L. piceae の詳細な記述があるが、子嚢胞子の長さはおよそ 100 μm. 程度となっている。 Minter の "Fungi of Ukraina, Rhytismatales"(下注参照)では、トウヒ (Picea) 属上の菌を L. abietis、モミ属上の菌を L. piceae として区別し、L. piceae は子嚢胞子が長い、としている。 両種を同一種とした Darker (1932) は子嚢胞子を 60-95 μm. としていて、多くの図鑑類はこれに拠っているようだ。 京都産の菌は子嚢胞子がかなり短いので別種だろう。魚住 (1960) にある Lophodermium 属菌の "第1の型" は特徴が近いと思うが、これも詳細がわからない。

[注]: 現在 Cybertruffle で公開されている [2024.07.24 閲覧確認] が、 以前は "Biodiversity Website" (http://www.biodiversity.ac.psiweb.com/papers/rhytukra/index.htm、現在はアクセス不能) で公開されていた。 公開日を特定できていないが、2002年には閲覧が可能で、手元に保存しているファイルを見る限り、公開当初から更新はされていないと思われる。

[別図2] 5月14日撮影。湿室に保って子嚢盤を開かせたもの。

[参考文献]
Darker (1932): The Hypodermataceae of conifers. (Contributions from the Arnold Arboretum of Harvard University ; 1).
Osorio and Stephan (1990): Zur Taxonomie und Nomenklatur von Lophodermium pieceae (Fuckel) v. Höhnel. (European journal of forest pathology ; 20, p. 355-366).
Osorio and Stephan (1991): Morphological studies of Lophodermium piceae (Fuckel) v. Höhnel on Norway spruce needles. (European journal of forest pathology ; 21, p. 389-403).
伊藤 (1961): 図説林木病害診断法 針葉樹篇.
伊藤 (1973): 樹病学大系 II.
魚住 (1960): ウラジロモミ針葉の2、3の病害. (森林防疫ニュース ; 9(5), p. 103-104).
大谷 (1989): 日本産盤菌綱菌類目録と文献. (横須賀市博物館研究報告. 自然科学 ; 37, p. 61-81).
亀井・井上 (1959): とどまつ保護篇. (北方林業叢書 ; 12).
北島 (1942): 樹病學及木材腐朽論. 増訂4版.

[初掲載日: 2024.07.28] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2024.