Microxiphium sp. no.1
Microxiphium sp. no.1
ミクロクシフィウム属菌。12月29日撮影。
[特徴]
常緑樹の生葉表面に薄いフィルム状に拡がる。菌叢はやや褐色に見え、径 2-5 mm. 程度の不整円形から融合して時に全面に拡がり、微細な剛毛がほぼ均等に生じる。
寄主の葉に変色等は見られない。
菌糸は表在性、分岐しながら隙間なく密に拡がり、淡褐色、薄壁、平滑、径 2-3.5 μm.、菌足はない。
所々で隔壁の多い菌糸が密に集まって塊状になり、中心に剛毛が直立する。
剛毛は黒褐色、厚膜、平滑、隔壁は認めにくく、高さ 120-240 μm. に達する。基部はやや膨らんで径 8-12 μm.、中央付近で径 5-8 μm.、先端は尖る。
先端付近を除くほぼ全体が淡褐色の菌糸の層によって形成された厚さ 15 μm. 程度までになる鞘に包まれる。菌糸は径 2-2.5 μm.、薄壁、隔壁が多い。
剛毛の基部付近では台座状に剛毛を包み、剛毛に沿って分岐しながら平行に伸び、上半の細胞は隔壁部がくびれて Oidium 状になり、亜球形ないし楕円形の分生子様の細胞が鎖生する。
ほぼ無色ないし淡褐色、平滑、1あるいは2個の油球を含む。3.5-5.8 × 2.8-4.6 μm.
[コメント]
シイ(おそらくツブラジイ、Castanopsis cuspidata)の生葉に発生していたもの。同じ種と思われるものが、アラカシ (Quercus glauca) 葉上にも発生する。
観察できたのは不完全世代のみだが、Ellis and Ellis (1997) の fig. 999 にある、Dennisiella babingtonii (Berk.) Bat. & Cif. に似ていると思う。
菌叢周辺に扁球形で黒色の微小な子嚢殻らしいものが少数見られたが、未熟状態で子嚢等を観察できなかった。
Dennisiella babingtonii の不完全世代は Microxiphium footii とされている。
完全世代の詳細が確認できておらず、複数の菌が混在している可能性もあるが、Microxiphium 属菌としておく。
国内ではカキのすす病が Microxiphium sp. として報告されていて、記載文献(鋳方末彦 (1942): 柿の重要寄生性病害に関する病理並に治病学的研究, p. 31)は未見だが、
日本植物病害大事典(p. 738、属名の綴りは Microxyphium sp. となっている)によると、この菌は
「柄子殻を生じる。柄子殻は苞状で中央部付近が膨大し、菌糸層上に直立、多くは単生、高さ 210-440 μm、幅 23-47 μm、
基部および孔口部の幅は 17-27 μm である。孔口部は毛状をなし、褐色ないし暗黒色、頂部ほど色が淡くなる。
分生子は楕円形、無色ないし淡灰緑色、単胞、大きさ 3.6-4.8 × 2.4 μm である。」 とあり、別種である。
[別図2]
5月25日撮影。アラカシ上に発生した菌叢中で成熟した子嚢殻を確認できた。
不完全世代の特徴はシイ上の菌と区別できず、同一種と思われるので、完全世代として記述しておく。
子嚢殻は菌叢中に少数が散生する。表在性、ほぼ球形、黒色、径 170-190 μm.、高さ 140-150 μm. 程度、孔口は僅かに突出し、下面はやや広く固着する。
表面は多角形の細胞からなり、やや厚膜、黒褐色、径 2.5-8 μm.、上半には斜め上方に伸びる剛毛が10数本程度ある。
剛毛は直線状ないしやや湾曲し、黒褐色で先端付近はやや淡色、厚膜、平滑、隔壁は不明瞭、37-60 × 3.4-4.2 μm.、基部はやや台状に拡がる。--
子嚢は紡錘形ないし長卵形、厚膜、8胞子を塊状に生じる。45-58 × 11.4-14.5 μm. --
子嚢胞子は両端の丸い紡錘形で時にやや湾曲し、ほぼ無色、薄壁、平滑、3隔壁をほぼ等間隔に生じて4細胞、隔壁部はほとんど括れない。17.1-21.5 × 3.7-5.4 μm.
掲載当初は "よくわからない子嚢菌類 no.9" としていたもの。
子嚢殻表面に剛毛があり、シキミ上の類似菌 Dennisiella sp. no.1 とは明らかに別種。
Batista and Ciferri (1962) は、Dennisiella に似て子嚢殻に剛毛を生じるものを別属 Vitalia としているが、
Hughes (1976) では Dennisiella のシノニムとされている。既知種に該当するものを見いだせない。[2024.09.15 追記]
[参考文献]
Batista and Ciferri (1962):The Chaetothyriales. (Beihefte zur Sydowia ; 3).
Dennis and Ellis (1952): Capnodium footii and Strigula babingtonii. (Transactions of the British Mycological Society ; 35, p. 196-200).
Ellis and Ellis (1997): Microfungi on land plants : an identification handbook. Enlarged edition.
Hughes (1976): Sooty moulds. (Mycologia ; 67, p. 693-820).
Tian et al. (2021): Phylogenetic relationships and morphological reappraisal of Chaetothyriales. (Mycosphere ; 12(1), p. 1157-1261).
[初掲載日: 2023.01.15, 最終更新日: 2024.09.15] //
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