Phragmothyrium muroianum I. Hino & Katumoto
メダケ類黒点病菌。9月25日撮影。
[特徴]
葉に暗褐色で不整紡錘形ないし楕円形の病斑を生じ、融合して拡がり、病斑部表面に子嚢子座が散生あるいはやや群生する。
表在菌糸は少なく、褐色、厚膜、平滑、分岐と隔壁があり、径 2.5-4.0 μm.、子実体周辺にまばらに拡がる。
所々に先端の丸い、長さ 10 μm. 程度までの短い分枝があるが、菌足のような構造は観察できない。--
子嚢子座は表在生、低い円錐状あるいはドーム状で縁辺はやや裂片状、黒褐色、径 100-150 μm.、高さ 60-75 μm.。
子嚢子座表面はやや粗造、径 2.5-4 μm. 程度の黒褐色で多角形の細胞がやや不明瞭な放射状に並ぶ。
頂部に径 15 μm. 程度の孔口があるが、構造の詳細を観察できない。多数の子嚢を生じる。--
子嚢は長楕円形あるいは下膨れの棍棒形、厚膜、頂孔は盲管状、短柄があり、メルツァー試薬に呈色しない。8胞子を不規則な2列に生じる。46-66 × 9-10.8 μm. --
側糸様の細胞は確認できない。--
子嚢胞子は長楕円形、無色、薄壁、平滑、2隔壁3細胞で中央の細胞がやや短く、隔壁部はわずかに括れる。少量の油球を含み、全体に比較的厚いゼラチン質様の被膜がある。12.3-16.6 × 4.0-4.9 μm. --
病斑上には分生子殻も生じる。分生子殻は表在生、低い円錐状、黒褐色、径 100-130 μm.、頂部に孔口がある。殻皮の表面は、黒褐色厚膜の表皮状菌糸組織のように見える。--
分生子は楕円形で時にやや左右不対称、無色、薄壁、平滑、ほぼ中央に隔壁があり2細胞、隔壁部はやや括れることがある。少量の比較的大型の油球を含む。10.5-13.2 × 3.4-4.2 μm.
[コメント]
雑木林林床のササ類の葉に発生していたもの。子嚢胞子、分生子の計測値は Hino and Katumoto (1958) の記述と比べるとやや小型であり、側糸様細胞は観察できなかった。
なお、Katumoto (1975) の記述は、原記載にほぼ沿っているが、側糸と不完全世代についての部分が削除されている。
寄主は未同定。ササ類は素人には特徴が掴みにくく、図鑑類を参照しても同定が難しい上に、種の概念と学名の変遷が多くて戸惑うことが多い。
文献に挙げられた寄主についても、判りにくい点があるので引用、比較してみる。
・Hino and Katumoto (1958、原記載): Hab. in foliis vivis Pleioblasti hodensis [Pleioblastus hodensis の属格表記]
・日本竹類寄生菌目録 (日野・勝本, 1958. 富士竹類植物園報告 ; 3, p. 63-80): ホウデンザサ
・Hino (1961): Pleioblastus hodensis Makino、P. pygmaeus Nakai
・Katumoto (1975): Pleioblastus hodensis Makino、P. pygmaeus Nakai、P. sibuyanus [sic] Makino
・植物病原菌類図説 (小林ほか, 1992): ササ類
・日本産樹木寄生菌目録 (小林, 2007): Pleioblastus hondensis [sic] Makino (ホウデンザサ)、P. pygmaeus Nakai、P. shibuyanus Nakai (シブヤザサ)
・日本産菌類集覧 (勝本, 2010): ケネザサ、シブヤザサ、ホウデンザサ
・日本植物病名目録 (日本植物病理学会, 2021): シブヤザサ (Pleioblastus fortunei)、コンゴウダケ (P. kongosanensis)
原記載の Pleioblastus hodensis [ホウデンザサ] は、日本植物病名目録にあるコンゴウダケのシノニムとされている様だ。
採集品の寄主は、背の比較的低い、葉身の幅 10-15 mm. 程度の小型のササで、おそらくネザサかその近縁種と思われ、Pleioblastus sect. Nezasa(メダケ属ネザサ節)のササ類に発生する菌と考えてよさそうだ。
Phragmothyrium 属は子嚢胞子が多隔壁であること等から、1隔壁2細胞の Microthyrium 属と区別されるが、シノニムとされることもある。
この菌の子嚢果は低い円錐形をしていて、典型的には扁平で楯形の子嚢果を形成する Microthyrium 属菌とは少し異なる印象をうける。
[別図2]
10月19日撮影。不完全世代の分生子殻。子嚢子座と同じ葉上に発生するが、ほとんど同形同大(わずかに小型)でルーペ下での区別は困難。
病斑内に散生するが、完全世代とコロニーは別れるようで、同一病斑内での混生は確認できなかった。
文献で分生子殻も生じることを知り、採集地を再訪して得たもの。時季によるのかも知れないが、かなり少ない。
[参考文献]
Hino (1961): Icones fungorum bambusicolorum Japonicorum.
Hino and Katumoto (1958): Illustrationes fungorum bambusicolorum VI. (Bull. Fac. Agr. Yamaguti Univ. ; 9, p. 877-908).
Katumoto (1975): The Hemisphaeriales in Japan. (Bull. Fac. Agr. Yamaguti Univ. ; 26, p. 45-122).
Wu et al. (2011): A reappraisal of Microthyriaceae. (Fungal diversity ; 51(1), p. 189-248).
[初掲載日: 2023.10.24] //
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