Phyllactinia roboris
Phyllactinia roboris (Gachet) Blumer
クヌギ裏うどんこ病菌。12月11日撮影。
[特徴]
菌叢は葉の裏面に生じ、永存性。裂子嚢殻は菌叢中に散生あるいはやや群生する。--
裂子嚢殻は扁球形、黒色、径 190-215 μm.、表面は径 12-20 μm. の黒褐色厚膜の細胞からなり、赤道付近に附属糸を生じる。
附属糸は9-13本、直線的針状、無色、厚膜、隔壁は無く、先端に向かって次第に細くなり、長さ 170-315 μm.、基部は球状に膨らんで径 30-43 μm.。
筆状細胞は見られない。多数の子嚢を生じる。--
子嚢は長卵形ないし長楕円形、厚膜、長さ 15 μm. までになる比較的長い柄があり、2胞子を生じる。77-95 × 34-43 μm. --
子嚢胞子は楕円形ないし俵形で時に左右不対称、淡黄色、薄壁、平滑、40-48.6 × 20-28 μm. --
分生子柄、分生子は確認できなかった。
[コメント]
クヌギ (Quercus acutissima) の落葉裏面に発生していたもの。文献では、子嚢は稀に3個の子嚢胞子を生じるとされるが、3胞子性の子嚢を確認できなかった。
子嚢殻中の子嚢の数を正確に数えることができなかった。子嚢がすべて2胞子性だとすると、子嚢の数は20個程度だろうと思われる。
Homma (1937) では Phyllactinia quercus (Mér.) Homma として挙げられていて、
その特徴は子嚢殻は径 266-322 μm.、附属糸の数は 16-21、子嚢の数は約 38、子嚢胞子は 30.0-44.4 × 20.4-25.2 μm. とされている。
かなり異なるように思うが、
Yu and Lai (1979) では子嚢殻は径 176-292 μm.、附属糸の数は 5-16、子嚢の数は約 9-31、子嚢胞子は 29-39 × 17-25 μm. とされていて、
子嚢胞子以外の特徴はおおよそ一致する。
Phyllactinia 属は子嚢殻上部に筆状細胞を有する種が多いが、検鏡した際には観察できなかった。
大谷 (1988) の Phyllactinia 属の検索表 (p. 259) では、P. roboris は 「閉子のう殻は上部に筆状細胞を有しない」 の分岐に置かれていて、
種の記述でも筆状細胞には言及されていないので、納得して標本はすぐに捨ててしまった(チャワンタケ以外の標本は残さないことにしている)のだが、
後で「日本植物病害大事典」を参照すると、筆状細胞についての言及があった。
クリ裏うどんこ病の項(執筆は丹田誠之助)では 「筆状細胞は、円筒形で長さ 50-60 μm. の柄部と細長い多数の枝部よりなる」、
カシ類うどんこ病とナラ類裏うどんこ病の項(執筆は共に佐藤幸生)では 「筆状細胞は、多数生じ、大きさは 55-75 μm.、柄の長さは 30-45 μm.、幅は 10-20 μm.、柄は上部で二又に分枝し、先端はしばしば膨れている」
とある。手持ちの文献ではこの種の筆状細胞について記述しているものが他に見当たらず、 Blumer の記述 (Beiträge zur Kryptogamenflora der Schweiz ; 7(1), p. 389-391. 1933) も確認したが、筆状細胞の記述はない。
筆状細胞の観察については来シーズン以降の課題として、疑問が残るけれども上記学名を当てておく。
[参考文献]
Homma (1937): Erysiphaceae of Japan. (Journal of the Faculty of Agriculture, Hokkaido Imperial University ; 38(3), p. 183-461 + plates IV-XI).
Yu and Lai (1979): 中国球针壳属分类的研究 II. 短附属丝子囊壳类型. (微生物学报 ; 19(1), p. 11-23).
大谷 (1988): 日本菌類誌. 第3巻 子のう菌類. 第2号 ホネタケ目・ユーロチウム目・ハチノスカビ目・ミクロアスクス目・オフィオストマキン目・ツチダンゴキン目・ウドンコキン目.
高松 (2012): 2012年に発行される新モノグラフにおけるうどんこ病菌分類体系改訂の概説. (三重大学大学院生物資源学研究科紀要 ; 38, p. 1-73).
[初掲載日: 2022.02.22] //
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