Phylloscypha phyllogena
Phylloscypha phyllogena (Cooke) Van Vooren = Peziza phyllogena Cooke
ニセクリイロチャワンタケ。4月24日撮影。
[特徴]
子嚢盤は深い椀形からやや平らに開き、大型で直径 4-12 cm. までになる。
子実層面はオリーブ色を帯びた赤紫褐色、普通は平滑だが中央付近は皺状になることがある。
群生すると歪んで縁は細かい波型になる事も多く、時に Otidea 状に側方が切れ込むこともある。
外面は微粉状でやや淡色で白っぽく(特に下半)、濃色の細かいフケ状の鱗片がまばらにあり、周辺部でやや顕著。
ほとんど柄は無いが基部付近はほぼ白色の菌糸に被われ、基質にかけてややマット状に広がることも多い。肉は比較的薄く、全体が水っぽくかなり脆い。--
子嚢は円筒形、有蓋で先端はメルツァー試薬で青変し、やや広く染まる。基部は膨らんで僅かに二叉状になる。8胞子を一列に生じる。280-360 × 13.2-16.0 μm. --
側糸は糸状、隔壁があり、ほとんど無色。径 3.5-5 μm.、上下同幅あるいは上半はやや細まる。先端は丸く、ほとんど膨らまないが時にマッチ棒状になる。先端近くで短い分岐を出すものがある。--
子嚢胞子は楕円形、成熟した胞子は淡黄褐色、明瞭な油球は見られないが2個の核様の内容物がある。
表面は疣状、疣は丸く、コットンブルーに良く染まり、互いに融合する事はほとんど無く、両端以外はほぼ均一に分布し、片面短径に10個程度。
両端付近の疣は融合し、かさぶた状にまとまるので両端はやや平らなドーム形に盛り上がる。疣を除いて 18.0-19.2 × 8.2-9.0 μm. --
托組織は比較的明瞭な層構造がみられる。ほぼ中央に径 15 μm. 程度までのやや平行に走る無色薄壁の菌糸からなる厚さ 300 μm. 程度の絡み合い菌糸組織の層がある。
この絡み合い菌糸組織の部分は脆弱なゼラチン状で潰れやすい。
その内側は径 40 μm. 程度までの球形、楕円形、ソーセージ形などの無色薄壁の細胞からなり、隙間をやや細い細胞が埋める。子実下層は厚さ 50 μm. 程度までの密な絡み合い菌糸組織。
外側は径 50 μm. 程度までの球形ないし丸みを帯びた多角形の細胞からなり、表面近くの細胞は比較的小型で細胞間の隙間が少なく、淡褐色を帯びる。
最外層の細胞からは時に短い毛状の細胞が伸び、房状に盛り上がる。
[コメント]
4月から5月頃、湿った朽木上や朽木に接した地上などに単生ないし群生する。京都付近で見られるチャワンタケの中では最も大型なものの一つ。
肉眼的に似た種類が幾つかあり、子嚢胞子両端がやや平たく盛り上がって見えるのが本種の特徴だが、成熟した子実体でなければ判りにくい。
大谷 (1989) では Peziza badioconfusa Korf とされているもので、Pfister (1987) によって Peziza phyllogena のシノニムとされている。
Peziza phyllogena を記載した Cooke (1879) には "Cups not exceeding one inch broad, often less ..." とあり、かなり小型(1インチ = 約 2.5 cm.)なのが少し気になる。
Cooke に標本を送った Ravenel のノートにも "1 1/2 inches in diameter" とあるというから、
径 4 cm. 程度ということになるのだが、未熟な子実体か、あるいは乾燥標本に拠る(ニセクリイロチャワンタケの子実体は比較的水っぽく、乾燥標本にするとかなり小さくなる)ものだろうか。
Ascomycete fungi of North America (2014) では P. phyllogena を "3-15 cm"、P. badioconfusa を "up to 5 cm" とし、両者は
"difficult to impossible to distinguish microscopically or macroscopically" と記す一方で、P. badioconfusa の特徴として基部の白色菌糸を挙げ、やや北方に分布するとしている。
青木の日本きのこ図版 no.312 (1969) の "クリイロチャワンタケ" は、本種だろう。
同氏は日本きのこ図版 no.1 (1965) で P. badia(和名クリイロチャワンタケ)をコゲチャチャワンタケとして掲載しているが、
後の日本きのこ分類研究 no.49 (1973) では P. badia をクリイロチャワンタケに、本種をクリイロチャワンタケモドキに訂正している。
---
Peziza 属は Van Vooren (2020) によって複数の属に分割され、Peziza phyllogena をタイプとして Phylloscypha 属が設けられたので修正した。[2023.05.15]
[別図2]
5月1日撮影。遊歩道わきの砂質の裸地に群生したもの。2メートルほどに亘って100個ほどの子実体が発生していた。
子実体直下の地中には菌糸束等は見当たらなかったが、深さ15センチ程の所に腐朽の進んだ遊歩道の崩れ止めの丸太と思われる朽木が埋まっていた。おそらくこれが発生源だと思う。
[参考文献]
Cooke (1879): Mycographia, seu Icones fungorum. vol. 1. Discomycetes, pt. 1.
Donadini (1979): Le genre Peziza Linn. per St Amans (groupe de Peziza badia). (Documents mycologiques ; 10, p. 49-60).
Elliott and Kaufert (1974): Peziza badia and Peziza badio-confusa. (Canadian journal of botany ; 52, p. 467-472).
Hosoya (2022): Enumeration of remarkable Japanese Discomycetes (12): Notes on two fungi of Pezizales, Byssonectria carlcinogenum new to Japan and Phylloscypha phyllogena. (Bulletin of the National Museum of Nature and Science. Series B (Botany) ; 48(2), p. 39-45).
Pfister (1987): Peziza phyllogena, an older name for Peziza badioconfusa. (Mycologia ; 79(4), p. 634).
Tylutki (1993): Mushrooms of Idaho and the Pacific Northwest. vol. 1. Discomycetes.
Van Vooren (2020): Reinstatement of old taxa and publication of new genera for naming some lineages of the Pezizaceae (Ascomycota). (Ascomycete.org ; 12(4), p. 179-192).
大谷 (1989): 日本産盤菌綱菌類目録と文献. (横須賀市博物館研究報告(自然科学); 37, p. 61-81).
[最終更新日: 2023.05.15] //
[サイトのトップへ] //
[掲載種一覧表へ]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2023.