Poculum sp. no.1
Poculum sp. no.1
ポクルム属菌。10月9日撮影。
[特徴]
子嚢盤は黒化した葉柄に単生あるいは少数が散生する。有柄、初めは深い椀形で縁は内側に巻くが、後には開いてほとんど平らな皿状になる。直径 1.5-3 mm.。
子実層面は淡黄褐色、縁はやや立ち上がって小さな鋸歯状になる。外面は濃色の細かいすじ状のささくれがあり、放射状にややけばだって見える。
柄は細く短いが、時に 5 mm. 程度にまで伸び、褐色で表面は僅かに微毛状、基部付近は黒褐色。--
子嚢は円筒形、先端は肥厚し、頂孔はメルツァー試薬で青変する。基部にはかぎ型構造がある。8胞子をほぼ2列に生じる。100-110 × 10.0-11.5 μm. --
側糸は糸状、基部付近で分岐し、隔壁は上半には認められない。径 2.5 μm. 程度で先端はわずかに膨らんで 3.0 μm. までになる。ほとんど無色、あるいはやや淡黄褐色の一様な内容物を含む。--
子嚢胞子は勾玉状、無色、薄壁、平滑。内容は1-3個の大きな油球と細かな油球がある。12.0-16.4 × 5.4-6.0 μm. --
子実下層は淡褐色、托組織髄層は径 3-6 μm. 程度の無色薄壁の菌糸からなる絡み合い菌糸組織で、時に径 10 μm. 程度にまで膨らんだ細胞が混じる。
外皮層は厚さ 40-70 μm.、ゼラチン化した厚膜の径 10 μm. 程度までのゆるやかに曲がりくねる菌糸からなる伸長菌糸組織で、髄層との境界付近は僅かに褐色を帯びる。
最外層には径 2-3 μm. の菌糸がある。隔壁があり、表面には褐色の顆粒が付着し粗面、先端は丸く、時に棍棒状、僅かに立ち上がり、所々で房状になる。
[コメント]
クヌギ (Quercus acutissima) やアベマキ (Q. variabilis) の前年の落葉の葉柄から発生する。常緑カシ類やコナラ等、他のコナラ属の落葉からの発生は確認できていない。
托組織に顕著なゼラチン層があるので、Poculum 属の菌だろう。
ブナ科の葉柄から発生するものに Poculum petiolorum や P. sydowianum 等があり、特徴はほぼ P. sydowianum にあてはまる。
P. sydowianum は、ヨーロッパではヨーロッパナラ(Q. robur。コナラ亜属コナラ節なのでミズナラやコナラに近い。葉はカシワに似ている。)等に発生する菌で、
日本では Zhao (2014) によってミズナラとコナラの葉柄に発生したものが P. sydowianum として報告されたのが最初だが、
Zhao (2014) の供試標本を基に Poculum pseudosydowianum が新種記載されていて、ミズナラの内生菌であることが判っている。
京都ではコナラには類似の菌は発生せず、ミズナラ上の菌も採集したことはないが、クヌギやアベマキに発生する菌は子嚢胞子がやや大きめな点など、P. pseudosydowianum とは異なるようだし、
P. sydowianum かどうかもよく判らない。
京都大学の農学部には、ヨーロッパナラの大木があった。ベルリンオリンピック三段跳び金メダリストの田島直人氏が副賞として受けた苗が植えられたもので、オリンピックオークとして有名だったが、
残念ながらナラ枯れで2008年に枯死している。この樹下で落葉を幾度か調べたことがあるが、類似の菌は採集できなかった。
[別図2]
10月5日撮影。裏面。アベマキの葉柄に発生したもの。
[参考文献]
Breitenbach and Kränzlin (1984): Fungi of Switzerland. vol. 1.
Hosoya, Zhao and Degawa (2014): Poculum pseudosydowianum, sp. nov. (Rutstroemiaceae, Ascomycota) from Japan and its endophytic occurrence. (Phytotaxa ; 175(4), p. 216-224).
Huhtinen (1983): Finnish records of discomycetes: Pseudorhizina sphaerospora and Poculum sydowianum. (Karstenia ; 23, p. 10-12).
White (1941): A monograph of the genus Rutstroemia (Discomycetes). (Lloydia ; 4(3). p. 153-240).
Zhao (2014): Taxonomic study of Lambertella (Rutstroemiaceae, Helotiales) and allied substratal stroma forming fungi from Japan. (Ph.D. thesis, University of Tsukuba, 2013).
[初掲載日: 2005.12.12, 最終更新日: 2020.11.17] //
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