Pyrenopeziza orientalipetiolaris

Pyrenopeziza orientalipetiolaris

Pyrenopeziza orientalipetiolaris Itagaki & Hosoya
ハイイロヒラサラタケ。5月4日撮影。

[特徴]
落葉葉柄上に散生する。子嚢盤は初め表皮下に生じ、後に表皮を破って表面に現れ、めくれた表皮は時に小さく反り返る。 葉柄の軸に沿った方向がわずかに長い楕円形の平皿状ないし円盤状、長径 0.3-0.8 mm.、子実層面は濃灰色から灰褐色、縁は全縁あるいはわずかに鋸歯状に見えるものがある。 外面は大半が寄主の表皮下に隠れているが、無毛で黒褐色に見える。柄は無く、広く基質に固着する。-- 子嚢は棍棒形、先端は肥厚し、頂孔はメルツァー試薬で青変する。基部にはかぎ形構造がある。8胞子をほぼ一列に生じ、後には部分的に2列になる。58-64 × 4.0-5.2 μm. -- 側糸は糸状、径 1.0-1.5 μm.、基部付近で分岐し隔壁があり、先端はやや膨らんで 5 μm. までになる。上半に無色の泡状内容物があり、先端には時に黒褐色の粒状付着物がある。-- 子嚢胞子は長楕円形、無色、薄壁、平滑、目立った内容物は無い、あるいは微小な油球を少量含む。7.1-8.6 × 1.7-2.5 μm. -- 托外皮層は淡褐色の矩形状細胞よりなる。15-20 × 8-10 μm. 程度、やや大きめの油球を含むものが多く、最外層の細胞はやや厚膜で褐色になる。 縁付近では細胞は次第に細長くなって、やや淡色、先端はやや膨れて丸く、10-20 × 2.8-4.2 μm.、子嚢盤縁部は子実層面から 30 μm. 程立ち上がる。 子嚢盤基部付近からは淡褐色の菌糸が寄主組織中に入り込む。直径 3-4 μm.、表面には所々に褐色の顆粒状物質が付着するものがある。 子嚢盤周辺の寄主組織中には径 3.4-7.2 μm. の黒褐色の菌糸がまばらに伸びる。やや厚膜、隔壁があり各細胞には褐色の油球が少量含まれる。

[コメント]
春から初夏にかけて様々な落葉の葉柄や主脈上に発生する。 先頭画像はウリハダカエデ (Acer rufinerve) の落葉葉柄部に発生していたもの。当初、ヨーロッパでカエデ類に普通に発生する Pyrenopeziza petiolaris としていたが、 Itagaki and Hosoya (2022) によって別種であることが明らかにされ、日本産の菌に対して表記の学名が与えられたので修正した [2023.08.05]。 トチノキ (Aesculus turbinata) 上の菌がホロタイプとされているが寄主範囲は広く、Itagaki and Hosoya (2022) では19科26種が挙げられていて、他にも多くの植物が寄主になるだろう。 このサイトでは当初、フジに発生するものを Pyrenopeziza sp. no.1、ダンコウバイに発生するものを Pyrenopeziza sp. no.4 として区別していたが、同一種と考えられるので統合した。 上記特徴は主にウリハダカエデ上の菌による。子実体の現れ方(寄主の表皮のめくれ方)が異なるのは寄主の表皮細胞の性質に拠ると思われる。各寄主上の菌の計測値はわずかに異なるが、変異と誤差の範囲だろう。 各種落葉の葉柄に発生し、肉眼的、顕微鏡的に区別の難しいものをこの種名でまとめておくが、区別すべきものがあるかもしれない。

[別図2] 上:4月29日撮影、下:5月4日撮影。フジ (Wisteria floribunda) の落葉葉軸に発生していたもの。子嚢は 60-62 × 4.5-5.2 μm.、子嚢胞子は 8.5-11.5 × 1.8-2.3 μm.
[別図3] 4月23日撮影。ダンコウバイ (Lindera obtusiloba) の落葉葉柄に発生していたもの。子嚢は 62-72 × 4.5-5.5 μm.、子嚢胞子は 8.5-10.9 × 1.7-2.3 μm.
[別図4] 4月18日撮影。ホオノキ (Magnolia obovata) の落葉葉柄に発生していたもの。子嚢は 60-68 × 4.8-5.2 μm.、子嚢胞子は 8.0-10.9 × 1.7-2.0 μm.
[別図5] 5月14日撮影。カラスザンショウ (Zanthoxylum ailanthoides) の落葉葉柄に発生していたもの。縁部の細胞はほぼ無色で、外面には黄褐色ヤニ状の付着物が多い。子嚢は 48-58 × 4.2-4.8 μm.、子嚢胞子は 9.1-11.4 × 1.7-2.0 μm.

[参考文献]
Hütter (1958): Untersuchungen über die Gattung Pyrenopeziza Fuck. (Phytopathologische Zeitschrift ; 33(1), p. 1-54).
Itagaki and Hosoya (2022): Pyrenopeziza orientalipetiolaris sp. nov. in Japan and morphological and genetic comparison with its relevant species P. petiolaris in Europe. (Mycoscience ; 63, p. 181-188).

[初掲載日: 2015.05.18, 最終更新日: 2024.08.10] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2023.