Scutellinia setosa
Scutellinia setosa (Nees:Fr.) Kuntze
スクテリニア セトサ。11月5日撮影。
[特徴]
朽木上に散生、時に密生する。子嚢盤は椀形から平たい皿状に開き、径 1.5-2.5 mm.、子実層面は黄橙色で平滑、
縁は全縁、外面は淡色で褐色の剛毛が目立つ。柄はほとんど無く、基質にやや広く固着する。肉質は柔らかい。--
子嚢は円筒形、薄壁、有蓋でメルツァー試薬に呈色しない。基部は2叉状になる。8胞子を一列に生じる。235-265 × 17-20 μm. --
側糸は糸状、隔壁があり、径 2.5-3.5 μm.、先端は棍棒状に膨らんで径 6.5 μm. までになる。全体に淡橙色の顆粒状の内容物がある。--
子嚢胞子は楕円形、無色、薄壁、表面は平滑(時に微細な不定形の物質がまばらに付着しているように見える。
この物質はコットンブルーで染まるので、子嚢内の原形質の名残ではないかと思う。)、内容物は径 4 μm. 程度までの泡状。18.3-20.0 × 11.0-12.0 μm. --
托組織髄層は絡み合い菌組織、外皮層は厚さ 150-180 μm. 程度、60-85 × 40-60 μm. までのほぼ無色の丸みを帯びた多角形細胞からなり、
縁部の細胞は棍棒形になって並び無色。
外面の剛毛は外皮層深部から生じ、褐色、厚膜、平滑、隔壁があり、先端はとがる。基部は短い数本の太根状に分岐する。
基部付近の最大径は 20-35 μm.、長さは縁部の毛で 480-850 μm. になる。
子嚢盤基部付近の表面細胞から無色の毛状菌糸が生じ、基質に向かって伸びる。
[コメント]
コナラを主とする落葉樹林内の倒木の材部に発生していた物。
アラゲコベニチャワンタケ属の中では黄色味が強く、小型な子実体の割に長い剛毛が目立つ。
Denison (1959) は、子嚢盤が小型で黄色、子嚢胞子表面が平滑の菌を S. erinaceus としたが、Schumacher (1990) に拠れば
S. erinaceus の子嚢胞子の表面は疣状とされている。
Beug et al. (2014) では S. erinaceus の子嚢胞子は平滑とし、
同様の子嚢胞子を生じる S. setosa は "orange-red" としているが、ここでは Schumacher に従っておく。
日本の図鑑、例えば「日本のきのこ」(山と溪谷社. 増補改訂新版, 2011)等で S. erinaceus
として掲載されている種(和名は与えられていないようで、スクテルリニア エリナケウス、とカタカナ書きされている)は、
肉眼的特徴が酷似し、"子嚢胞子は平滑" とされているので同種だろう。
五十嵐恒夫の「北海道のキノコ」(北海道新聞社, 2006)では学名を Scutellinia erinaceus (Schw.) Kuntze sens. Denison
としているが、S. setosa を使うのが妥当だと思う。最近 Choi et al. (2013) によって韓国から報告されている。
中国から子嚢胞子が平滑な近似種 S. setosiopsis Zhuang が記載されているが、子嚢胞子が一回り小型である。
[参考文献]
Beug et al. (2014): Ascomycete fungi of North America : a mushroom reference guide.
Choi et al. (2013): Scutellinia (Pezizales) in Korea, with a new species and eight new records. (Nova Hedwigia ; 97(3-4), p. 457-476).
Denison (1959): Some species of the genus Scutellinia. (Mycologia ; 51, p. 605-635).
Schumacher (1990): The genus Scutellinia (Pyronemataceae). (Opera botanica ; 101).
Van Vooren (2014): Contribution à la connaissance des Pézizales (Ascomycota) de Rhône-Alpes. 2e partie. (Cahiers de la FMBDS ; no 4).
[初掲載日: 2018.02.16]