Septoria sp. no.1

Septoria sp. no.1

Septoria sp. no.1
セプトリア属菌。11月18日撮影。

[特徴]
葉に病斑を生じる。葉は枯れて黄変するが、病斑周辺には緑色が残る。病斑は不整円形ないしやや多角形状、径 3-10 mm. 程度、暗褐色、境界は明瞭、病斑中に多数の分生子殻を生じる。-- 分生子殻は寄主組織中に埋生し、ほぼ球形、黒褐色、径 60-90 μm.、殻壁は褐色で径 2-5 μm. 程度の多角形細胞からなる。孔口は葉の表側の表皮を破ってやや広く開き、ほとんど突出しない。-- 分生子形成細胞の詳細を確認できなかったが、分生子殻内面のほぼ全体から生じるようである。孔口から噴出した分生子塊はルーペ下では乳白色の粒状に見える。-- 分生子は緩やかに湾曲する糸状、無色、薄壁、平滑、一端はやや細まり、ほぼ等間隔に3隔壁を生じて4細胞、少量の油球を含む。22.8-45.8 × 1.2-1.6 μm.

[コメント]
全草が半ば萎れた状態のテンナンショウ属の一種 (Arisaema sp.) の葉に生じていたもの。 寄主のテンナンショウ類は類似種が多く、花や果実を未見なので同定できていないが、葉は鳥趾状。マムシグサ (Arisaema japonicum) だろうか。 球形の分生子殻、無色糸状の分生子といった特徴はいわゆる Septoria 属に該当すると思う。多くの種が記載されている上に近似属もあり、素人には難しい。 日本野生植物寄生・共生菌類目録 (2002)、日本産菌類集覧 (2010)、日本植物病名目録 (2024) 等の目録類や関連論文を探したけれど、該当しそうな種が見当たらない。 海外では、スリランカでテンナンショウ属の A. leschenaultii から Septoria arisaematis Petch が記録されている。 原記載は簡単で、分生子の計測値は近い(3隔壁、30-38 × 1.5-2 μm.)が、詳細がよく判らない。
ところで、ペッチの原記載では Septoria arisaemae となっている。種形容語の arisaemae は、寄主の属名 Arisaema の属格のはずだ。 Arisaema は "-a" で終わっているので、第一変化 ("-a" → "-ae") の女性名詞なら属格は arisaemae で良いのではと思ったけれど、 マムシグサの種形容語が japonicum と中性になっている通り、中性名詞で第三変化 ("-a" → "-atis") のようだ。 普段、クイックレファレンスとして使っている生物学名命名法辞典 (平嶋, 1994. §914) には "女性" とあるので戸惑った。 Arisaema は、ギリシャ語の ἄρον(テンナンショウ類の古名)と αἷμα(血)がラテン語化された複合語、とのことだが、 Botanical Latin (Stearn, 3rd ed., 1983) には "Nouns ending in -ma, with the genitive singlar ending in -atis, are neuter neun of Greek origin." とある。

[参考文献]
Petch (1917): Additions to Ceylon fungi. (Annals of the Royal Botanic Gardens, Peradeniya ; 6(3), p. 195-256).

[初掲載日: 2024.12.15] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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