Sphaeropsis visci
Sphaeropsis visci (Alb. & Schwein.) Sacc.
ヤドリギの寄生菌。3月20日撮影。
[特徴]
ヤドリギ(Viscum album var. coloratum (Komar.) Ohwi)の枝、葉の両面、芽などほぼ全ての部位に亘って分生子殻を生じる。
分生子殻は比較的均等に多数生じ、表皮下に埋生する。単生、ほぼ球形、直径 280-400 μm.、肉眼では黒色。孔口付近は表皮を破って露出する。
殻壁は厚さ 30 μm. 程度、多角形で厚膜、15 × 6 μm. 程度までの黒褐色の細胞の層よりなる。--
分生子形成細胞は内面に密生し太めのとっくり形で無色。分生子を出芽する。--
分生子は一細胞、長円形から楕円形、初め殆んど無色だが後に黄褐色になる。平滑、やや厚膜、内容物は細かい泡状。45.2-60.2 × 20.1-25.8 μm. --
分生子形成細胞の間からはほぼ分生子と同長の細い棍棒状の無色の細胞が立ち上がる事がある。
[コメント]
地上のヤドリギ落枝に発生していた物。ヤドリギは全体が鮮やかな橙黄色に変色している。
褐色で大型単細胞の分生子を生じる特徴を参考書で調べると Sphaeropsis 属にたどり着いた。
日本産樹木寄生菌目録にはヤドリギの寄生菌として Sphaeropsis viscicola Sawada 一種が挙げられていて、
日本植物病名データベース
で宿主=ヤドリギで検索するともう一種 Sphaeropsis visci
が出てくるがこれは日本の研究者(三浦密成)によって記録された日本以外で発生した病害となっていて、典拠は満蒙植物誌となっている。
Sphaeropsis viscicola は原記載によれば、枝に寄生、殻壁の厚さ 55 μm., 分生子殻の大きさ 100-130 × 98-110 μm.、分生子は長楕円形で灰色ないし暗灰色、
32-52 × 16-23 μm. で、Sphaeropsis visci (Sollm.) Sacc. に近い、とある。胞子の大きさは近いが分生子殻の大きさがかなり違う。
もっとも沢田の記載の、分生子殻の大きさが約 100 μm. で殻壁が 55 μm.、その中に 30 μm. を超える分生子を生ずる、
というのは私にはどうも計算が合わないように思われるのだが...。
沢田が近似種としている S. visci は Phillips et al. (2008) には分生子殻は 300 μm. 程度、胞子は (27-) 29-33 (-50) × (14.5-) 15.5-19 (-22) μm. とあり、
分生子の大きさがかなり違う。他の文献では分生子の大きさを 40-50 μm. 程度とするものもあり、ばらつきが大きいのかも知れない。
満蒙植物誌第3輯 (1928) では吉林の記録を挙げ、 Sphaeropsis visci の分布地として「欧州、日本、満洲」とあり、
発酵研究所研究報告14号 (1989) には菌株 IFO32084 として Sphaeropsis visci が挙がっていて、
由来は Fac. Agr. Hirosaki Univ. (Y. Harada; 1053) となっているので日本産の記録もあるはずだが見つける事ができなかった。
Sphaeropsis visci と考えるのが妥当と思う。樹上のヤドリギにも黄変しているものが多数観察できたので普通種だろう。
[参考文献]
Phillips et al. (2008): Resolving the phylogenetic and taxonomic status of dark-spored teleomorph genera in the Botryosphaeriaceae. (Persoonia ; 21, p. 29-55).
Sawada (1958): 東北地方菌類調査報告 (IV) 不完全菌類. (林業試験場研究報告 ; 105号, p. 35-140).
[初掲載日: 2011.04.13]