Trichobolus zukalii
Trichobolus zukalii (Heimerl) Kimbrough
トリコボルス ツカリイ。3月16日撮影。
[特徴]
糞上に単生する。初めは半埋生状だが後には全体がほぼ表在となる。
子実体は卵形ないし洋梨形、肉眼では半透明淡橙褐色で上半はやや乳白色を帯びる。直径 300-400 μm.、高さ 425-460 μm.。
頂部以外の外面ほぼ全体から無色針状の毛をまばらに生じる。柄は無く糞上に座生する。--
子嚢は子実体中心部に一個のみ生じる。卵形、ほぼ無柄あるいは基部に不明瞭で短い柄があり、先端部以外は厚膜、メルツァー試薬に呈色しない。
成熟した子嚢の内容物は肉眼では淡黄色に見える。
先端構造の詳細を観察できなかったが、少なくとも明瞭な蓋や頂孔は無く、不規則に破れるように見える。非常に多くの子嚢胞子を生じる。330-350 × 240-280 μm. --
側糸は子嚢の周囲を包むようにほぼ単層に生じ、糸状、無色、薄壁、隔壁があり、先端は丸い。径 2-2.5 μm. --
子嚢胞子は広楕円形、無色、薄壁、平滑、顕著な内容物は見られない。被膜は無いが、原形質の様な物質で合着し、まとまって射出される。9.7-11.5 × 8.5-9.5 μm. --
外皮層は無色薄壁の矩形ないし多角菌糸組織からなり、径 16-25 μm. 程度。子実体下半の表面には径 2.5-6.0 μm. 程度の無色薄壁の菌糸がまばらな網状に拡がる。
外面の毛は10-20本程度、表面細胞の間から生じ、針状、無色、平滑、先端はとがり、140-470 × 7-11 μm.、基部は瘤状あるいは便腹状に膨らんで 12-16 μm. までになるが、末端は細まり截頭状。
全体が厚膜で厚さは 3 μm. 程度になる。隔壁は少数、主に基部付近にあり、薄い。
[コメント]
2月28日に採集したシカの糞を即日湿室に入れて無暖房の室内に置き発生させたもの。シカの糞から比較的普通に発生し、低温期にも良く発生する。
子嚢は一個、子実体をゆで卵に例えるとちょうど黄身の部分が子嚢にあたり、ルーペ下では黄色く濁った球状に透けて見える。
子嚢の上部は初めは外皮層の細胞で覆われるが、やがて露出する。
糞を入れた湿室の蓋の内面には射出された子嚢胞子塊が付着するので、最高で10センチ近くは胞子塊を跳ばすことができるようである。
付着した胞子塊は径 0.5 mm. 程度で乳白色粘液状、水滴を落とすと子嚢胞子は比較的容易に分散する。
成熟した子嚢は子実体上部を突き破り、子嚢胞子は一塊となって射出されると思われるが詳細を確認できなかった。一子嚢中の子嚢胞子は数千個に達すると思われる。
T. zukalii の子嚢胞子には de Bary 泡が見られると言うが、新鮮な子実体を水でマウントしたものでは観察できなかった。
[別図2]
4月1日撮影。シカの糞上。周辺の白い子実体は Ascobolus 属菌。
[参考文献]
Doveri (2012): Coprophilous discomycetes from the Tuscan archipelago (Italy). Description of two rare species and a new Trichobolus. (Mycosphere ; 3(4), p. 503-522).
Kimbrough (1966): Studies in the Pseudoascoboleae. (Canadian journal of botany ; 44, p. 685-704).
Kimbrough and Korf (1967): A synopsis of the genera and species of the tribe Theleboleae (=Pseudoascoboleae). (American journal of botany ; 54(1), p. 9-23).
[初掲載日: 2016.04.05, 最終更新日: 2022.04.03]