Trichoderma cornu-damae

Trichoderma cornudamae

Trichoderma cornu-damae (Pat.) Z.X. Zhu & W.Y. Zhuang = Podostroma cornu-damae (Pat.) Boedijn
カエンタケ。7月23日撮影。

[特徴]
子実体は地上生で大型、単一の基部から2,3本ないし十数本程度に分岐するが、地表近くで枝分かれして指状の分枝が株立ち状になる場合と、 上方で分岐して厚ぼったいトサカ状になる場合がある。時には枝分かれのない棍棒状の子実体も見られる。 基部付近で直径 10-15 mm.、各分枝の直径は 3-7 mm. 程度、高さは大きい物では 10 cm. を超える。 先端もやや細まって丸いものと、尖るものがある。 表面は肉眼的には平滑、ほぼ全体が鮮赤色(時に橙色のものがある)、基部付近は淡橙色や黄色味を帯びる場合があり先端は時にやや白っぽい。 乾燥すると濃い臙脂色あるいはやや黒ずんだ赤紫色になる。肉質はやや硬く内実は白い。 基部以外のほぼ全面に子嚢殻を生じ、不稔部分との境界は不明瞭。-- 子嚢殻は表皮直下に一層に密生する。広楕円形、170-230 × 220-260 μm.、孔口は殆んど突出せず目立たない。-- 子嚢は円筒形、先端はやや平らになる。8個の子嚢胞子を1列に生じるが、後に子嚢中で分裂して16個の部分胞子になる。5.1-5.8 × 97-111 μm. -- 側糸は認められない。-- 部分胞子はほとんど無色(あるいは僅かに淡黄褐色に見える)、一端が平らな広楕円形ないし卵形、平らな面以外の表面は比較的粗い疣に覆われる。 子嚢先端側(上半)の部分胞子の方が僅かに幅広く、短い。上半側の部分胞子は 3.2-4.3 × 4.0-6.0 μm.、下半側は 3.0-4.0 × 5.0-6.6 μm. (子嚢から放出された部分胞子では上半側か下半側か区別しがたいので子嚢中の胞子での計測値。) -- 子実体外皮層は厚さ 50 μm. 程度、赤橙色で径 10-15 μm. 程度の多角形の細胞からなり、表面にはまばらに楕円形の細胞が立ち上がる。 子嚢殻の下層付近の組織は直径 8-12 μm. の無色薄壁の絡み合い菌組織からなる。

[コメント]
朽木近くの地上に単生あるいは少数が散生する。最近では特にナラ枯れのよるコナラの立ち枯れや切り株の周辺に多く発生しているのに出会う。 子実体の基部を辿る事は難しいが、地中の腐朽木から発生しているように見える。 以前は比較的稀なキノコとされ、ナラ枯れの拡がる2007年以前には数年に一度程度、僅か4回しか出会っていない。 2007年以降は京都付近の里山で夏から初秋にかけて毎年頻繁に見るようになったが、最近(2018年頃以降)は少し落ち着いたようである。
カエンタケの学名は Podostroma cornu-damae とされている(Hypocrea 属とする事もある)が、Podostroma cornu-damae は Boedijn (1934) や Chamberlain et al. (2004) によれば胞子がやや小型で殆んど平滑だと言う。 京都でナラ枯れの被害木付近に多く発生するカエンタケの胞子は明瞭な疣状で、その他の特徴もむしろ近似種の Podostroma grossum (Berk.) Boedijn によく合う。 カエンタケの中には肉眼的にも顕微鏡的にも微妙に異なるものがあるように見えるし、Chamberlain et al. (2004) は日本産のカエンタケの標本を Hypocrea grossa (= Podostroma grossum) と同定しているので複数種が混在している可能性もあると思うけれども、 胞子が粗面の日本産カエンタケを P. cornu-damae とした Doi (1967) に従ってこの学名を使っておく。
猛毒菌で、毒成分(トリコテセン系化合物)は皮膚刺激が強いので触るのも控えた方が良いと言われるが、最初の頃はそんな事は知らずに普通に素手で採集していた。 皮膚に異常が出た記憶はないけれど、味見などしなくて本当に良かったと思う。
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命名規約の改訂(メルボルン規約, 2012)に従って属名は Trichoderma が採用されることになり、朱・庄 (2014) により上記の新組み合わせが提案されているので修正した。 なお、Bissett et al. (2015) により三重県産のカエンタケの標本 (TNS-F-190012) が T. cornu-damae のエピタイプに指定された。[2020.02.21 追記]

[別図2] 上半で分枝するタイプ。9月25日撮影。
[別図3] 棍棒状で橙色を帯びた子実体。老熟して退色したものだと思う。射出された子嚢胞子で覆われている。9月22日撮影。

[参考文献]
Bissett et al. (2015): Accepted Trichoderma names in the year 2015. (IMA Fungus ; 6(2), p. 263-295).
Boedijn (1934): The genus Podostroma in the Netherlands Indies. (Bulletin du Jardin Botanique Buitenzorg ; Serie III, v. 13, p. 269-275).
Chamberlain et al. (2004): The stipitate species of Hypocrea (Hypocreales, Hypocreaceae) including Podostroma. (Karstenia ; 44, p. 1-24).
Doi (1967): Revision of the Hypocreales with cultural observations III. Three species of the genus Podostroma with Trichoderma or Trichoderma-like conidial state. (Trans. Mycol. Soc. Japan ; 8 (2), p. 54-60).
朱・庄 (2014): 木霉属12个中国新记录种和3个新组合. (菌物学报 ; 33(6), p. 1175-1209).

[初掲載日: 2011.10.03, 最終更新日: 2020.02.21] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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