Tryblidiopsis pinastri

Tryblidiopsis pinastri

Tryblidiopsis pinastri (Pers.: Fr.) Karsten
トリブリディオプシス枝枯病菌。5月25日撮影。

[特徴]
枯枝に散生ないしやや群生する。子嚢盤は表皮下にある子座状の組織から単生あるいは少数が生じ、表皮を破って現れ、 倒円錐形ないし肉厚のビョウ形、暗紫褐色ないしほとんど黒色、表面は平滑、乾燥時は堅い革質で上面は盃状に凹むものが多く、径 0.8-1.5 mm. 程度、柄は太く短い。 成熟後湿った状態ではやや膠質になって膨らみ、上面が放射状に裂開、反り返って子実層が現れる。子実層面は平滑、乳白色で、僅かにベージュないしピンク色を帯びて見える。-- 子嚢は棍棒状で下半は細く伸びる。先端は肥厚せず、未熟な子嚢ではやや平ら、メルツァー試薬に呈色しない。8胞子をほぼ一列に生じる。157-194 × 20-26 μm. -- 側糸は糸状、基部付近で分岐し、隔壁がある。径 1.5-2.5 μm.、先端は膨らんで 2.5-3.2 μm. になる。内容物は無色。-- 子嚢胞子は長楕円形あるいは紡錘形、左右不対称で時に三日月状になる。無色、薄壁、平滑、内容物は泡状、ほぼ中央に隔壁があり2細胞、下半の細胞はやや細く、尖るものが多い。 20-30 × 6.5-8.9 μm.、全体が厚いゼラチン状の被膜に包まれる。被膜は側面で 2-3 μm.、両端では 6 μm. 程度までになる。-- 托組織髄層は径 1-2 μm. 程度の無色の菌糸からなる絡み合い菌組織で、ゼラチン化しているように見える。 外皮層は黒褐色で厚膜、丸みを帯びた径 3-8 μm. 程度の多角形の細胞からなる。 子実層上面の殻皮は厚さ 40-50 μm. 程度、最外層以外は無色の多角形細胞からなるが、子実層に接する部分は淡褐色を帯びる。

[コメント]
針葉樹の落枝に発生していたもの。寄主は未同定だが、トウヒ類 (Picea sp.) だろうか。 分生子世代は柄子殻を形成し、細長い鎌形の分生子を生じるとされるが、確認できなかった。 Livsey and Minter (1994) には、"with a distinctive sweet smell" とあるが感じられなかった。 Magnes (1997) は北米亜種 T. pinastri subsp. americana を記載していて、子実層に接する殻皮部分の色が異なる(subsp. americana は暗色)とされている。 高橋・佐保 (1973) は、"子実層上部は ... この組織と子実層の間にはさらに無色ないし淡褐色の薄い層を有し" としていて、私の採集品でも淡褐色の層が確認できる。 ヨーロッパと北米に広く分布するようだが、アジアからの記録は少ない。Wang et al. (2014) は、中国から近似の2新種を記載し、北米や日本の記録については再検の余地があるとしている。 邦産の Tryblidiopsis 菌は T. pinastri とは別種の可能性があるが、従来からあてられている上記学名を使用しておく。

[別図2] 5月25日撮影。乾燥状態の子実体。

[参考文献]
Livsey and Minter (1994): The taxonomy and biology of Tryblidiopsis pinastri. (Canadian journal of botany ; 72, p. 549-557).
Magnes (1997): Weltmonographie der Triblidiaceae. (Bibliotheca mycologica ; 165).
Tanney and Seifert (2019): Tryblidiopsis magnesii sp. nov. from Picea glauca in Eastern Canada. (Fungal systematics and evolution ; 4, p. 13-20).
Wang et al. (2014): Multigene phylogenetic analysis detects cryptic species of Tryblidiopsis in China. (Mycologia ; 106(1), p. 95-104).
高橋・佐保 (1973): Tryblidiopsis pinastri (Pers.) Karsten によるトウヒ属とマツ属の枝枯病. (日本林学会誌 ; 55(2), p. 75-77).

[初掲載日: 2023.06.08] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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