検印エピソード. 福田恆存著「太宰と芥川」(昭和23年)

福田恆存は (1912-1994) は評論家、翻訳家、作家。
進藤純孝著「ジャアナリスト作法 : 編集者の告白」 (角川書店, 1959) の113ページに、福田の検印にまつわるエピソードがある。

進藤が新潮社で福田の「太宰と芥川」の担当になった時、著者に検印紙を返却した事があった。
[以下枠内引用]
おそらく、社が初めに一万部なら一万部出そうということで検印してもらったのだが、
あとで八千部しか出せないということになって、検印してもらった二千部分の検印紙を返したのであったろう。
その返却する役目を私がおおせつかった。ずいぶんいやな役目である。仕方なく福田さんに会って、
「一万部の検印をいただいたのですが、八千部しか刷れませんので、二千部分はお返し致します。」と、一気にいってのけた。
福田さんは「ああ、そうですか」とあっさり受け取ってくれた。福田さんにしても、ひどいことをやるものだと、不快であったにちがいない。
初刷で一万部を見込むのが、当時のこの分野の出版物として妥当なのかどうかわからない。
私なら 「二千部分は社の方で保管して増刷の際に使用させていただきます。」 とごまかし、
後で「思ったほど売れなかったので増刷できません、お返しします。」 と作品の不評を理由にして済まそうかな、とか思う。
どちらにしろ、あまり良い感じではないが。こんな場合、最初は少な目に見積もって追加する方が良いんでしょうか。

[2025.08.14 記]
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