初期検印紙調査メモ [国立国会図書館デジタルコレクション]. 大槻書会(明治18年10月)

仙台藩の大槻家は江戸後期から明治にかけて、大槻玄沢、大槻磐渓、大槻如電、大槻文彦らの学者を輩出した。
「蘭学階梯」の著者玄沢 (1757-1827)、「近古史談」の磐渓 (1801-1878)、「言海」の文彦 (1847-1828) は "大槻三賢人" と呼ばれる。
如電 (通称:修二, 1845-1931) は弟の文彦に家督を譲り、在野の学者として多くの著作を残し、和漢洋に通じた博識として知られたが奇人とも称された。

大槻磐渓が著した歴史書「近古史談」は当時よく読まれたようで、複数の出版者によって刊行されている。
磐渓の息子、如電と文彦は「刪修近古史談」("刪修" は文章を削り改めること)を出版していて、これも版を重ねている。

その「刪修近古史談」四刻第二巻に検印紙が貼られている。確認したのは国立国会図書館デジタルコレクション公開本。
第一巻の見返しの表示は "磐渓大槻先生著 | 刪修近古史談 | 黒石齋蔵版 | 明治十八年九月第四刻"
第二巻奥付は下記の通り。
明治十四年八月十六日 版權免許
同 十五年二月二十日 刻成
同 十八年九月七日 四刻御届
同 一八年十月 刻成
著述 故大槻磐翁
刪修兼出版人 東京府平民 大槻修二 淺草區北富坂町二十五番地
刪修人 東京府士族 大槻文彦 北豐島郡金杉村二百十六番地
製本發賣書肆 大坂心齋橋筋北久太郎町 柳原喜兵衛
大坂本町四丁目 岡島眞七
大坂心齋橋筋北久寶寺町角 三木佐助 [印]
検印紙は奥付上部に貼られていて、縦長方形、二色刷り、雷紋の枠内に"大槻書會版權所有之印信"、縁の上下右左に "三"、"世"、"書"、"香" とある。
割印は "三木佐助"の丸印。書会という言葉はあまり聞かないが、大槻修二編 「日本地誌要略」 (1879) 等の検印にも "大槻書會" の語が見える。
"三世書香"は、玄沢、磐渓、如電と文彦の三代に亘る学者の家系を意味するのだろう。
明治37年に出版された大槻文彦の「言海」縮刷版等に押された検印にもこの言葉が使われている。

では三刻はどうだろう。これも確認したのは国立国会図書館デジタルコレクション公開本。
第一巻の見返しの表示は "磐渓大槻先生著 | 刪修近古史談 | 黒石齋蔵版 | 明治十七年三刻"
第四巻奥付は下記の通り。
明治十四年八月十六日 版權免許
同 十五年二月二十日 刻成
同 十七年七月十九日 再刻御届
同 一七年十一月廿四日 三刻御届
著述 故大槻磐翁
刪修兼出版人 東京府平民 大槻修二 浅艸區北富坂町廿五番地
刪修人 東京府士族 大槻文彦 北豊島郡金杉村二百十六番地
製本發賣書肆 東京日本橋通二丁目 稲田佐兵衞
同所 小林新兵衛
大阪心齋橋筋北久太郎町 柳原喜兵衛
大阪心齋橋筋北久宝町角 三木佐助 [印]
検印紙は奥付上部に貼られていて、"版權所有大槻修二之印信" の角印が朱で押された紙片が貼られている。割印は "弎木佐助"の丸印。

では再刻は。これも確認したのは国立国会図書館デジタルコレクション公開本。
第一巻の見返しは "磐渓大槻先生著 | 刪修近古史談 | 黒石齋蔵版 | 明治十七年再刻"
第四巻奥付は以下の通り。
明治十四年八月十六日 版權免許
同 十七年七月十九日 再刻御届
同 年十一月 刻成 [月は八の上に紙を貼って十一に修正している]
著述人 故大槻磐翁
刪修兼出版人 東京府平民 大槻修二 淺艸區北富坂町廿五番地
刪修人 東京府士族 大槻文彦 淺艸區今戸町廿壱番地
發賣書林 東京日本橋通二丁目 稲田佐兵衛
同所 小林新兵衛
検印紙は無く "大槻藏版" の朱印が押してある。

初刻は、早稲田大学古典籍総合データベースで確認した。大槻文彦旧蔵本、表紙には"校正本"とある。
第四巻奥付は以下の通り
明治十四年八月十六日 版權免許
同 十五年二月二十日 刻成
著述人 故大槻磐翁
刪修兼出版人 東京府平民 大槻修二 淺艸區北富坂町廿五番地
刪修人 東京府士族 大槻文彦 淺艸區今戸町廿壱番地
發賣書林 東京日本橋通二丁目 稲田佐兵衛
同所 小林新兵衛
奥付には検印紙も押印も見られないが、校正本だからかもしれない。版を重ねるにしたがって、比較的短期間で検印紙の体裁が整ったように見える。

国会図書館デジタルコレクション、早稲田大学古典籍総合データベースの各資料アドレスは下記の通り。[最終閲覧確認日: 2025.08.25]
刪修近古史談 [初刻]. [リンク先 https://archive.wul.waseda.ac.jp/kosho/bunko08/bunko08_a0112/bunko08_a0112.pdf]
刪修近古史談 再刻第一巻. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/11622037. ログイン必要]、同第四巻. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/11622040. ログイン必要]
刪修近古史談 三刻第一巻. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/11622033. ログイン必要]、同第四巻. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/11622036. ログイン必要]
刪修近古史談 四刻第一巻. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/3437975. ログイン必要]、同第二巻. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/3437977. ログイン必要]

[2025.08.30 記]
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