現代経済知識全集(中央経済社)の検印紙と書架引換副券
1950年半ば、中央経済社から 「現代経済知識全集」 が出版された。文字通り、当時の経済学を実務も含めて多角的に解説したものだ。
一番最初に刊行されたのは、1954年4月25日出版の第4巻、北沢新次郎著「社会主義経済の知識」。
巻末にある出版予定一覧によると、全50冊、上装、函入、定価280円。
続いて、5月25日に第46巻土屋好重著 「廣告の知識」、5月31日に第42巻佐藤舜著 「証券取引所の知識」、
6月5日に第41巻葛城照三・鈴木譲一共著 「損害保険の知識」、と順調な滑り出しで出版が始まった。
そして、6月25日出版の第12巻 「日本経濟史の知識」 の巻末には書架引換副券が綴じ込まれた。
[確認できたのは第12巻が最初ですが、この巻以前に綴じ込まれたものがあるかも知れません]
書架引換副券は、ほぼ葉書大、"本全集全巻購読の方には、各巻に添付してある副券五十枚一揃と引換に、
本全集用の美麗な書架を贈呈しますから、此の副券を大切に保存しておいて下さい。" とある。
左上には連番と思われる数字が押され、切取線には "中央経濟社" の割印がある。
これ以前に出版された第4、41、42、46巻には副券は綴じ込まれていないのだが、それらについては
"副券が貼付してありませんから、著者檢印紙を以て副券の代用と致します。" と明記されていて、
既刊分も揃えないと貰えないようになっている。
最近はあまり聞かないように思うが、全集を揃えたら専用の書架を贈呈します、という企画は幾つか例があるし、
雑誌では一年分が綴じられる専用バインダーが用意されたりもする。
この全集の場合、書架のプレゼントは当初の計画にはなく、何らかの理由で途中から始められたものの、
さて、それまでに出版されたものについてはどうしよう、と考えた結果、検印紙で代用することになったのだろう。
出版社側で発行枚数が正確に把握でき、著者印があるため偽造も難しいだろうから、良いアイデアだと思う。
ちなみに、第4巻「社会主義経済の知識」にはこのような
検印紙
が貼られている。
その後、各巻が順調に出版されたが、1955年12月に出版された16冊目の第10巻赤松要著 「貿易」 を最後に全集の出版は杜絶したようだ。
既刊本の幾つかは1957年頃までは増刷されているが、新刊の出版はこれ以降は確認できず、予定の3分の1に満たない。
出版社の倒産などで続巻が刊行されないことは珍しい事ではないが、中央経済社は現在まで続いている出版社であり、
刊行中止の理由は判らない。出版方針が変更されたか、あるいは売れ行きが良くなかったのかもしれない。
同社から1956年2月に出版された、三潴信邦著 「労働賃金」 の巻末にはこの全集の一覧が掲載されているが、
これ以降の出版物には見当らないので、この頃には中止が決定されていたのだろう。
どのような専用書架が計画されていたのかわからない。
美麗と言ってもそんなに期待しない方が良いだろうが、読者の中には副券と検印紙を大切に保管していた人も多いと思う。
[2025.09.10 記]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2025.