印刷された検印
英語学者の斎藤静 (1891-1970) が、回顧録(「斎藤静教授還暦記念論文集」 (1959) 所収)で自著の検印について触れている。
自身が出版した教科書に貼る検印紙が何万という数になり、検印を押す時間が無くなってきた。
"そこで冨山房と相談して、検印をおしたという形式を備えるために、奥付けに、斎藤検印という印章型のものを印刷することにした。
こんなことを実行したのは日本では私だけであり、これが最初で最終ではあるまいかと思う。" [上記論文集 p. 339-340]
斎藤は 「Living English readers」 等の教科書を冨山房から出版していて、多くの学校で使用されたようだ。
どんな印章型が印刷されているのか、実物をまだ見る機会がないが、全ての著作について印章型で代用したのではなく、
「雙解英和辞典」(冨山房, 1943) には "斎藤" 印のある
検印紙
が貼付されている。[第7版, 1947 による。]
斎藤は、"こんなことを実行したのは日本では私だけであり、これが最初で最終ではあるまいか" と書いているが、
検印や著者のサインが奥付に直接印刷されている例は少ないながらある。もっとも、それが著者側、出版社側のどちらの事情なのかは判然としない。
梅山英夫著 「南方宗教事情とその諸問題」 (東京開成館, 1942) の
印刷された検印。
樺俊雄著 「最後の微笑」 (文藝春秋新社, 1960) の
印刷されたサイン。
大河内一男著 「日本的中産階級」 (文藝春秋新社, 1961) の
印刷されたサイン。
文藝春秋新社の1960年ごろの出版物には、この例が多く見られる。おそらく出版社側の意向で、検印作業を省略したものだと思う。
奈良靜馬著 「日本と比律賓」 (大日本雄辯會講談社, 1942) の
印刷されたサイン。
また、東京開成館の出版物には、検印だけでなく検印紙まで奥付に直接印刷している例がある。
中川一男著 「西洋中世史新論」 (東京開成館, 1942) の
印刷された検印紙と検印。
東京開成館の
本来の検印紙
は橙色である。[黒田正利著 「詳説イタリア文學史 上巻」 (東京開成館, 1944) による。]
[2025.09.20 記]
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