検印エピソード. 福本和夫の検印
福本和夫 (1894-1983) は経済学者。思想史、文化史の著作も多い。
「唯物論者のみた梟」(出版東京, 1952)は、フクロウ好きの福本がフクロウに関する古今東西の様々な事柄を集めた本だ。
その中に、"ミミヅクのゴム印" という章がある。そこには、
福本が奥付に検印を押す際、普通の印鑑では指先が痛くなるので、検印用に軽いゴム印を使うことにし、
版画家の井上彌太郎氏にフクロウを彫ってもらうことにした。そしてできあがった印を初めて使用したのは、
1949年10月1日発行の「日本農業における資本家的経営発展の略図」(解放社)だと書かれている。
「唯物論者のみた梟」の奥付にも、当然このフクロウの印が押されている。
頭には耳(羽角)が突き出ているので、福本が書いている通りミミズクと呼ぶ方が適当だろう。
福本はこの印を好んで使用していて、実見できた 「革命は楽しからずや」(教育書林, 1952)の
検印
を挙げる。
作者の井上彌太郎の経歴はよくわからないが、福本は "井上君はおしいことに宿痾のために、この世を去ってしまい、
今は君がかたみとして、このフクロウの判が、私の手もとにのこっている。" とも書いている。
その後、「日本捕鯨史話」(法政大学出版局, 1960)では、普通の
認印
を使用している。
フクロウのゴム印が磨滅したためかもしれないし、縦約20ミリあるゴム印は小型の検印紙には向かなかったからかもしれない。
その後、「日本ルネッサンス史論」(東西書房, 1967)では
別のフクロウ印
が使用されている。
この印影は、「私の辞書論」(河出書房新社, 1977)の奥付では著者のコピーライト表示に添えて
印刷
されている。
[2025.09.30 記]
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