初期検印紙調査メモ. 高橋五郎著「漢英對照いろは辭典」(長尾景弼, 明治21年5月出版)

高橋五郎 (1856-1935) は英語学者。「漢英對照いろは辭典」の著者には高橋五郎の名が挙げられているのみだが、
辞書の出版を発案企画して資金を調達し、高橋ほか多くの協力者を集めて編纂させたのは、丹羽五郎 (1852-1928) である。
丹羽は邏卒から警察署長を務め、後に北海道に渡って丹羽村を開拓したことで知られる。
「漢英對照いろは辭典」の出版は開拓資金を得るためでもあった。
幾つかの版があるが、調査したのは奥付に明治21年5月出版と記されているもの。洋装、1冊。
日本語の標題紙と英語の標題紙がある。
日本語の標題紙は "髙橋五郎著 | 漢英對照 いろは辭典 | 東亰 小林家藏版"。
英語の標題紙は "A | JAPANESE ALPHABETICAL | DICTIONARY | -WITH- | CHINESE AND ENGLISH |
EQUIVALENTS. | BY | TAKAHASHI GORO. | NEW & COPYRIGHT EDITION. | PUBLISHED BY |
F. KOBAYASHI. | SOLD BY | HAKUBUNSHA, | No. 1, 4th street Ginza. | NISSHINDŌ, |
No. 18, Ogawamachi. | & | DANDANSHA, | No. 32, Kijichō. | TŌKYŌ, JAPAN."
奥付は以下の通り。
明治廿年八月廿二日版權免許
明治廿一年四月三十日 印刷 定價金五圓五拾錢
明治廿一年五月 日 出版
版權所有者 東京府平民 小林富美 東京芝區西久保巴町三十一番地
著作者 東京府平民 髙橋五郎 東京芝區葺手町十八番地
發行者 兵庫縣士族 長尾景弼 東京芝區三田壹丁目三十六番地寄留
印刷者 東京府平民 山口竹二郎 東京京橋區八官町十八番地
印行所 國文社 東京京橋區總十郎町十五番地
賣捌所
博聞本社 東京京橋區銀坐四丁目一番地
日進堂 東京神田區小川町十八番地
團々社支店 東京神田區雉子町三十二番地
丸善商社書店 東京日本𣘺區通三丁目十四番地
発行者の長尾景弼は博聞社社長。版権所有者の小林富美については詳細を調べられなかった。
検印紙 は奥付上部の枠内に貼られている。33 × 48 mm.、版面 31.5 × 46 mm.、目打なし、平版に見える。
黒青2色、四隅に飾り文字で "N" "I" "W" "A"、周囲にはブドウ、コーリャン?、ムギ、ジャガイモ?が描かれ、
楕円枠内中央に "漢英對照 いろは辭典" とある。
楕円枠に沿って上側に "にをかはちうごよめらさしうくにはしきこてよのやうしうしよ" ["こ" は変体仮名]、
下側に "かれうじののをししてさつわがかいほくだうよくにしみんとせすん" と書かれている。
枠外下部には小さく "東京國文社石印" とある。割印は "小林ふみ 版權所有之章" の楕円印。

ひらがなで書かれた部分は暗号になっている。丹羽の考えが綴られていて、前半は比較的簡単だが、後半はかなり難しい。
検印紙の図案史上最大のミステリーではないかと思うので解読結果は伏せるが、丹羽の名前(旧仮名遣いで "にはごらう")がヒント。
この暗号文については山田忠雄著「近代国語辞書の歩み」(三省堂, 1981)[上巻, p. 546] でも触れられていて、
「当今例を見ぬ洒落た遣り方」、「自力で解読せられるのも亦読余の一興であろう。」とされている。

[2025.11.24 記]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2025.