マッチ棒パズルを解いてみた
先日ある雑誌の頭の体操コーナーに次のような問題が出ていた。制限時間は2分だ。
「マッチ棒10本で作られた次の図形(下図)を、5本のマッチ棒を使って三等分しなさい。」
解答はこのように示されているだけで特に解説はなく、見ればわかりますね、といった感じだ。
良くある問題なので答えは知っていたしそれ自体にとやかく言うつもりは無いけれど、この答えには肝心な部分の説明が無い。
答えの図の A と B の点は、底辺中央のマッチ棒の三等分点で、しかもマッチ棒は元の図形に対して直角に置かなければいけない。
だがこの三分の一の点はどのようにして求めたのか、どうすれば直角に置く事ができるのかは何も解説されていない。
つまり、ここは目分量で置いてください、ということなのだ。でも、そんないい加減な事でいいのだろうか。
これを目分量でなく、マッチ棒を使って三等分点と直角を正確に割り出してマッチ棒を置く事はできるだろうか。
昔から幾何学でコンパスと定規だけを使って様々な図形を作図するという問題があるが、
これはコンパスも使わない、長さが一定の線分のみを使っての作図問題と考えていいかも知れない。
マッチ棒は実際には幅と厚みがあるが、ここでは無視して線分と考えることにしよう。
長さは、わかりやすいように1とする。次の三つは基本的な操作としていいだろう。
・ マッチ棒は任意の一点を一端として平面状に自由に置く事ができる。
・ マッチ棒の一端をマッチ棒に接する様に置くことができる。
・ マッチ棒の一部を重ねる事で、長さ2未満まで延長できる。
最初に定められている点はマッチ棒の両端のみ。新しく点を定めるにはマッチ棒で交点か接点をつくらなければならない。
例えば上左図で定められる点は線分(マッチ棒)の両端の A と B の二つ。マッチ棒を交差させるか (C)、接して置く (D) ことで新たに点を定める事ができる。
線分の延長(上図右、わかり易いように少しずらしてある)は重なる部分が短くなると正確な延長は実際には難しいが、
重なる部分がゼロでなければ良いことにしよう。この条件で、上記の問題を解けるだろうか。
つまり最初に定められた点は問題図で並べられたマッチ棒両端の10点、使用できるのはマッチ棒5本(a,b,c,d,e としよう)のみ、
鉛筆などで印を付ける事もしないで三等分点と直角を求め、答えを完成させるにはどうすればいいか、という事だ。
もちろん様々な方法があるだろうが、できるだけ少ない手順で完成させたい。以下のような手順を考えてみた。
(fig.1)点M と点N を一端としてマッチ棒aとマッチ棒bを図のように両端が接するように置く。
この時 ∠MQN は直角だから四角形 MPNQ は正方形となるのでマッチ棒aと外形の上辺及び下辺とは並行で、その距離は1である。
(fig.2)マッチ棒cとマッチ棒dをつないで点 M と点 N を結び、対角線を引く。(マッチ棒cを点 M 側とする)
(fig.3)マッチ棒cはそのままにして、同様にマッチ棒bとマッチ棒dで点 P と点 Q を結ぶ。(マッチ棒bを点 P 側とする。)
マッチ棒cとbの交点 O は正方形の中心だから、点 O とマッチ棒aとの距離は 1/2 である。
(fig.4)マッチ棒bとマッチ棒cの交点 O と点 R をマッチ棒dとマッチ棒eをつないで結ぶ。(マッチ棒eを点 O 側とする。)
(fig.5)マッチ棒eはそのままにして、点 O と点 S をマッチ棒bとマッチ棒dをつないで結ぶ。(マッチ棒dを点 O 側とする。)
これでマッチ棒aをマッチ棒eとマッチ棒dとの交点によって三等分する事ができた。細かな証明は不要だろうが三角形 ABE と DCE を考えると
AB:DC = BE:CE = 2:1。BC の長さは1/2、BE の長さはその 2/3 だから 1/2 × 2/3 = 1/3 となり点E はマッチ棒aの三等分点の一つである。(fig.5’)
(fig.6)マッチ棒aとeの交点を一端としてマッチ棒b,cを外形に接するように置く。
交点と外形の上辺、下辺との距離は1なので外形との接点は直角になり、マッチ棒bとcは一直線、外形との接点は接するマッチ棒の三等分点である。
(fig.7)マッチ棒eを、マッチ棒aとdの交点を一端としてマッチ棒aと一直線になるように置く。(図ではわかりやすいように少しずらしてある)
(fig.8)マッチ棒eの両端からマッチ棒aとdを外形に接するように置く。マッチ棒aとdはやはり外形と直角に接し、接点は各マッチ棒の三等分点になる。
これでいいはずだ。一本のマッチ棒を取って置く、というのを一手順とすると15手順となる。
各段階で手順のバラエティが幾つかあるけれど手順数は変わらない。これが最短手順だと思うがどうだろうか。
2分でこれを考えるのは結構難しそうだ。
で、実際に机にマッチ棒を並べて動かしてみた。結果は... ぐちゃぐちゃだ。
マッチ棒には幅も厚みもあるので重ねるのが難しいし、交点に正確に接するように置くのは事実上不可能だ。
目分量で置く方がよっぽどきれいに置くことができる。その点ではこの解答は不正解なのかも知れない。
実際にはできない役に立たない理論を机上の空論というけれど、机上ですらできない。超机上の空論だ。
--- おまけ [実践に役立つアドバイス] ---
マッチ棒がぐちゃぐちゃになるのは、マッチ棒を動かす際に置いている他のマッチ棒に当たってずれるためです。
これを防ぐために、粘着シートにマッチ棒を並べ、ピンセットを使って動かすと上手にできます。
粘着シートは各種ありますが、例えばコクヨの「ひっつきシート」などが便利だと思います。
粘着シートが無い人は、濡らしたティッシュペーパーの上で試してみると良いでしょう。
また、最初のマッチ棒の図形は、各マッチ棒の間に隙間を少し開けて大きめに作っておくと一層きれいにできますし、下に方眼紙などを敷いて目安にするのも良いでしょう。
もちろん、できるだけ真直ぐで長さの揃ったマッチ棒を用意したり、先端の火薬を削り取って平らにしておくなどの細かな配慮も大事です。
すみません、ムダな知識でしたね。
(2008.12.01 記)