Pachyella clypeata?

Pachyella clypeata

Pachyella clypeata (Schw.) Le Gal?
カバイロチャワンタケ。4月29日撮影。

[特徴]
子実体はほとんど平らな皿状、やや肉厚で肉質は軟らかい。直径 15-25 mm. 程度。 子実層面は栗褐色で平滑ないし不明瞭な皺状になる事もある。柄は無く、広く朽木に固着する。外面はわずかに褐色を帯びた乳白色で平滑、粘性がある。 肉は乳白色で外層はやや半透明に見える。切断面に変色性は見られない。-- 子嚢は円筒形、8胞子をほぼ一列に生じる。全体がメルツァー液で薄く青変し上半はやや濃く染まる。 未熟な子嚢では比較的顕著に反応するが、成熟した子嚢ではほとんど反応が見られないことも多い。410-475 × 18.6-22.0 μm. -- 側糸は糸状、隔壁がある。分岐は見られない。先端は次第に膨らんで 9.0 μm. までになり、淡褐色の内容物がある。-- 子嚢胞子は楕円形で平滑。2油球を含む。22.0-24.6 × 12.6-14.8 μm. -- 托髄層は絡み合い菌組織、托外皮層は数珠状に繋がる球形ないし楕円形の細胞の外側にゼラチン質に包まれて柵状にならぶ長い鞭形の細胞がある。 鞭状の細胞は長さ 350 μm. までになる。先端は丸く、時にやや膨らむ。

[コメント]
春から初夏にかけて水辺の湿った広葉樹の朽木に発生する。Pfister (1973) には 8 cm. までになる、と記されているが 3 cm. 程のものまでしか見たことがない。
今まで、「朽木生」「外面の組織は長い柵状」「子嚢胞子は楕円で平滑」という特徴をあわせ持つものを Pachyella clypeata としていたが どうやら少し様子の異なるものが混じっている様だ。その一つが [別図2] の "カバイロチャワンタケ" である。 肉眼的には区別できず、子嚢胞子の大きさもほぼ同じ(22.8-25.7 × 12.0-13.7 μm.)だが、成熟した子嚢胞子の表面は油浸レンズで観察すると非常に細かい疣状に見える。 また、外面の鞭状の細胞は基部付近では短い分枝を出して互いに吻合する。これらは Pachyella clypeata の特徴とは異なるように思えるが、 過去に採集した標本の中には子嚢胞子を詳細に観察していないものもあるので、ここではひとまとめにしてカバイロチャワンタケとしておく。

[2014.06.06追記]
今年採集した "カバイロチャワンタケ" の子嚢胞子は、成熟したものはすべて表面が細かい疣状だった。 先頭画像の標本を改めて検討し、子嚢胞子が平滑であることを確認したが成熟胞子ではないのかもしれない。 過去の標本は Pachyella sp. no.1 と混同しているものがあるかもしれない。 Pachyella sp. no. 1 との異同も含めて疑問をぬぐいきれないので疑問符を付けておく事にした。

[別図2] 子嚢胞子表面が細かい疣状の子実体。5月25日撮影。

[参考文献]
Pfister (1973): The psilopezioid fungi. IV. the genus Pachyella (Pezizales). (Canadian journal of botany ; 51(11), p. 2009-2023).
Pfister and Candoussau (1981): The psilopezoid fungi. VIII. additions to the genus Pachyella. (Mycotaxon ; 13(3). p. 457-464).

[初掲載日: 2005.05.13, 最終更新日: 2014.06.06]