Phillipsia domingensis

Phillipsia domingensis

Phillipsia domingensis (Berkeley) Berkeley
ニクアツベニサラタケ。8月22日撮影。

[特徴]
朽木に単生あるいは散生する。肉厚で平らな皿状から後にはやや凸形になって反り返る。直径 2-4 cm.、厚さ 5 mm. 程度。 子実層面は平滑、くすんだバラ色から赤紫色。縁は全縁、外面はほとんど平滑、あるいは僅かにしわ状、乳白色ないしクリーム色。 柄はほとんど無く、中央でやや広く基質に固着する。肉は半透明乳白色で弾力があり丈夫、乾くと硬いコルク質になる。-- 子嚢は円筒形、厚膜、先端の蓋は斜めにつき、下半は緩やかに屈曲して細く伸びる。メルツァー試薬に呈色しない。8胞子を一列に生じる。335-390 × 14.0-17.2 μm. -- 側糸は糸状、基部付近で分岐し隔壁がある。径 2.0-2.5 μm.、先端はわずかに膨らんで 2.5-4.0 μm. 程度になる。 先端細胞は無色の一様な内容物を含むものが多く、下半には赤紫色の細かい顆粒状物質が多い。-- 子嚢胞子は不対称楕円形ないし細豆形で無色。両端はやや尖る。2ー4個の油球が目立つ。表面には縦に不明瞭な畝状の隆起があり、片面で3ー4本程度確認できる。23.5-29.0 × 9.8-12.3 μm. -- 托組織髄層は径 3-6 μm. の無色薄壁の菌糸からなる比較的密な絡み合い菌組織よりなる。 外皮層は厚さ 100 μm. 以下、表皮状菌組織あるいは密な絡み合い菌組織で、髄層との境は不明瞭、表面からは長さ 11-23 μm. で無色の一様な内容物のある短い菌糸がまばらに立ち上がる。 縁部の細胞は長く伸び、緩やかに屈曲し 85-140 × 5-6 μm. の円筒状になる。

[コメント]
夏から秋にかけて、朽木上に単生あるいは散生する。画像はフジ (Wisteria floribunda) の朽木に発生していたもの。 朽木の種類を特定できない場合も多いが、フジの朽木に発生しているものをよく見る。 子嚢胞子表面の畝状の縦の隆起はコットンブルー、コンゴーレッドなどの染料で染め分けることができず、光学顕微鏡では詳細な観察が難しいが、 Phillipsia sp. no.1 とした種と比較すると明らかに太く、片面に数本程度で、明瞭に区別できる。関東では比較的普通種らしいが、京都付近ではそれほど多くない。 Hansen et al. (1999) は、P. domingensis が複合種である可能性を指摘していて、邦産種についても検討が必要かもしれない。 Jiménez-Zárate et al. (2020) に拠ればメキシコでは食用(薬用)として利用されているという。

[参考文献]
Denison (1969): Central American Pezizales. III. The genus Phillipsia. (Mycologia ; 61. p. 289-304).
Ekanayaka et al. (2017): The genus Phillipsia from China and Thailand. (Phytotaxa ; 316(2), p. 138-148).
Hansen et al. (1999): Phylogenetic relationships among species of Phillipsia inferred from molecular and morphological data. (Mycologia ; 91(2), p. 299-314).
Jiménez-Zárate et al. (2020): Primer registro de la comestibilidad de Phillipsia domingensis (Ascomycota: Sarcoscyphaceae): aspectos nutricionales y actividad biológica. (Scientia fungorum ; 50, p. 1-10).
大谷 (1980): 日本産ベニチャワンタケ亜目. (日本菌学会会報 ; 21, p. 149-179).

[初掲載日: 2021.09.10] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
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