Phillipsia sp. no.1
Phillipsia sp. no.1
ニクアツベニサラタケ属菌。9月18日撮影。
[特徴]
子嚢盤は朽木から発生する。ほとんど柄が無く中心部で基質に固着するものから、太くて短い柄があるものもある。
肉厚の平らな皿状からやや凸形になる。直径 3-5 cm.、厚さ 7 mm. までになる。
子実層面は平滑でくすんだバラ色からワイン色だが、クリーム色の絣模様が入るものが多い。
外面はクリーム色、部分的にわずかに赤みを帯びほとんど平滑。肉は白色で丈夫。--
子嚢は円筒形で下半は細くなり屈曲する。厚膜で先端の蓋は斜めにつく。8胞子を一列に生じる。440-540 × 11.0-16.5 μm. --
側糸は糸状、基部で分岐し隔壁がある。径 2.0-2.5 μm.、先端は次第に膨らんで 4.5 μm. 程度になる。
ほとんど無色の一様もしくはやや泡状の内容物がある。--
子嚢胞子は不対称楕円形ないし細豆形で無色。両端は比較的丸い。1-3個の油球を含む。
表面には不明瞭で細い縦の畝状隆起が片面で8本ほど確認できる。21.5-28.6 × 11.0-13.8 μm. --
托組織髄層は比較的密な絡み合い菌組織よりなる。外被層はやや平行な菌糸からなる。表面からは先の丸い短い菌糸がまばらに立ち上がる。
基部に隔壁があり、無色の油球を含む。 20-35 × 5.5-8.6 μm.
[コメント]
晩夏から秋にかけて沢沿いの埋もれ木や湿った朽木などに孤生あるいは少数が固まって生える。
朽木は比較的硬く、材部だけになって表面は黒い事が多い。おそらく広葉樹だと思う。
胞子表面の畝状隆起はコットンブルーなどの手持ちの染色剤で染め分けることができないので詳細は確認できていないのだが等間隔に平行に走り、分岐はほとんどないように見える。
初めて採集したのはもう20年程前になるが、
ニクアツベニサラタケ (Phillipsia domingensis)
だと思っていた。
大谷博士のモノグラフに Phillipsia 属はこれ一種類しか出ていないからだが、
「数本の明りょうな縦線模様がある」という記述との不一致も、未熟な物だからだろう程度に考えていた。
しかし後に採集できた成熟した子実体の胞子を観察しても縦線模様はきわめて繊細で本数も多く見えるのが疑問だった。
その後 Denison の論文を読んで、むしろ P. crispata に近いのではと思うようになっていたが、
今では中国真菌志 21巻にある P. chinensis Zhuang かもしれないと考えている。
胞子の大きさや条線の数、子実層面の色彩など、良く一致すると思う。
「日本産菌類集覧」(勝本, 2010)が採用している Phillipsia 属の和名 "ネッタイベニチャワンタケ属" は、Ito and Imai (1937) によって Phillipsia domingensis に与えられた和名に基づく。
最初に小笠原で見つかったためだが、関東などでも発生が確認されていることを理由に、大谷 (1980) が新たに和名 "ニクアツベニサラタケ" を提唱し、属名もニクアツベニサラタケ属とした。
[別図2]
渓流沿いの砂地に半ば埋れた朽木から発生していたもの。10月3日撮影。
[別図3]
9月23日撮影。
[参考文献]
Denison (1969): Central American Pezizales, III. The genus Phillipsia. (Mycologia ; 61, p. 289-304)
Ito and Imai (1937): Fungi of the Bonin Islands II. (Transactions of the Sapporo Natural History Society ; 15(2), p. 52-59).
大谷 (1980): 日本産ベニチャワンタケ亜目. (日菌報 ; 21, p. 149-179)
中国真菌志. 第21巻. (2004)
[初掲載日: 2004.09.20; 最終更新日: 2021.09.10] //
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