Yoshinagaia quercus

Yoshinagaia quercus

Yoshinagaia quercus Hennings = Monoloculia quercus Hara
アラカシの表黒点病菌。6月9日撮影。

[特徴]
アラカシの葉表面に発生する。子嚢子座は寄主の表皮を破って表在、散生し、黒褐色クッション形。直径 0.5-1.2 mm.、厚さ 0.6 mm. 程度。 表面はつやは無く顆粒状あるいはやや皺状でざらつき、硬い。下面はややくびれて太く短い柄状になって寄主の組織に入る。 成熟すると上面が不規則に破れて反転、やがて脱落し、やや肌色を帯びた灰白色の子実層を表す。-- 子嚢は一層に並び、厚膜、円筒形で短い柄がある。メルツァー液に呈色せず、特別な先端構造はみられない。8胞子を1列に生じる。205-228 × 18-25 μm. -- 側糸様の細胞は認められない。-- 子嚢胞子は一細胞で楕円ないし卵形。無色、薄壁、平滑。少量の小さな油球を含む。22.8-31.6 × 12.0-13.2 μm. -- 子座外壁は厚さ 50-120 μm.、黒褐色の厚膜多角形の細胞よりなる。-- 同時に分生子が観察できる。長楕円形、無色。45.8-51.6 × 7.1-8.6 μm.。両端近くに隔壁があり、3細胞。 基端は截頭状になる。先端細胞からは直径 1 μm. 程度の糸状の付属糸が伸びる。 基部近くで3本(稀にさらに分岐する)に分れ、それぞれは 34-42 μm. までになる。

[コメント]
アラカシのまだ緑色が残る新しい落葉に発生していたもの。 分生子は子嚢が成熟している子座中にも見られるし、分生子のみが見られる子座もあるが、分生子の成熟が先行するようである。アナモルフには Japonia quercus の学名が与えられている。 ずっと一属一種で日本特産とされていたが、日本では戦前の原摂祐の報告など以外には図示された物が少なく、 植物病原菌類図説 (1992) の図 (p. 107) は正確さに欠ける。最近台湾からも報告された。
日本植物病名目録 (2023) では、"Monolocula [sic] quercus Hara" の学名を採用し、シノニムとして Yoshinagamyces quercus Hara, Japonia quercus Höhnel を挙げる。 Rossman et al. (2016) では、以下の様に整理されている。
Yoshinagaia quercus Henn., Hedwigia 43: 143 (1904).
Synonyms: Monoloculia quercus (Henn.) Hara, Diseases of Trees: 171 (1927).
Japonia quercus Höhn., Sber. Akad. Wiss. Wien, Math.-naturw. Kl., Abt. 1, 118: 879. (1909).
Yoshinagamyces quercus Hara, Bot. Mag., (Tokyo) 26: 143 (1912).
この菌の学名については、若干の混乱があり、Sivanesan and Hsieh (1995) に、その概略が示されているが、かなりややこしい。 一番の原因は、Hennings が Yoshinagaia quercus を記載した標本が未熟な上に別種が混在していたことだろうが、 アラカシの葉表面に黒色クッション状の子座を形成する菌が2種(本種と Yoshinagella japonica)あること、 2種ともに子座内に完全世代と不完全世代を生じること、二重命名法や解釈の違いによりそれらに別々の学名が付けられたこと、等が混乱を引き起こしたように思う。 伊藤は表黒点病菌について、「日本における樹病学発達の展望(I)」 (1965) で、"学名は混とんとして、まことに不明確で採集された材料ごとに菌の属名がかわっている" (p. 107)、 「日本における樹病学発達の展望(II)」 (1965) では、"[与えられた属名は] まことにまぎらわしい名称であるばかりか、消えては現われ、訂正されてはまた元にもどり実に目まぐるしい" (p. 106) と記している。

[別図2] 3月18日撮影。生葉上のもの。全て分生子のみの子実体で、子嚢は確認できなかった。

[参考文献]
Rossman et al. (2016): Overlooked competing asexual and sexually typified generic names of Ascomycota with recommendations for their use or protection. (IMA fungus ; 7(2), p. 289-308).
Sivanesan and Hsieh (1995): A re-appraisal of the systematic status of the ascomycete genus Yoshinagaia. (Mycological research ; 99(11), p. 1295-1298).

[初掲載日: 2011.07.04, 最終更新日: 2024.10.10] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2024.