Yoshinagella japonica

Yoshinagella japonica

Yoshinagella japonica Höhnel
ヨシナゲラ ヤポニカ。7月25日撮影。

[特徴]
生葉の表側に子座を形成する。子座は表皮を突き破って現れ、やや肉厚の円盤状、黒色、上面には数個あるいはそれ以上の粒状半球形の隆起がやや同心円状に並ぶ。径 2 mm. 程度まで。 下面はほぼ平らで、中心に短い柄があり、寄主組織中に伸びる。子座中にほぼ一層に子嚢室と分生子殻を生じる。 両者は同一子座に混在するが、分生子殻が先に形成、成熟し、子嚢の成熟はやや遅れる。-- 子嚢室はほぼ球形、径 300-400 μm. 程度、上端にほとんど突出しない孔口があるようだが、詳細を観察できなかった。-- 子嚢は円筒形、やや厚膜、先端に特別な構造は見られず、メルツァー試薬に呈色しない。8胞子を一列あるいは部分的に2列に生じる。100-126 × 8.5-11.5 μm. -- 側糸は糸状、分岐と隔壁があり、先端は丸く、ゼラチン質に包まれているように見える。径 1-2 μm. -- 子嚢胞子は紡錘形で両端はやや丸く、時に左右不対称、無色のちわずかに褐色を帯び、薄壁、平滑、初め2細胞、後に3隔壁4細胞になり、中央の隔壁部はやや括れる。18.5-25.8 × 5.6-6.3 μm. -- 分生子殻は子座中に形成され、ほぼ球形、径 100-200 μm.、内面には高さ 10 μm. 程度までの棍棒状の分生子柄が林立し、先端に分生子を単生する。 分生子は紡錘形、先端側は尖り、基部側は小さく截断状、無色、薄壁、平滑、内容は泡状、17.2-24.3 × 4.5-6 μm. -- 子座組織は淡色、径 4-9 μm. の多角形細胞で、最外層の細胞は丸みを帯び、厚膜で黒褐色になる。

[コメント]
アラカシ (Quercus glauca) の葉に生じたもの。生葉に生じ、落葉上でも成熟するようである。 原 (1936, p. 170) では "アラカシの表黑點病菌の一種" とされていて、不完全世代を Microperella quercus Höhnel としている。 原は上位分類を Dothideaceales, Dothideaceae としている一方で、同書 p. 125 にも Myriangiales, Dothioraceae として同菌が重複して挙げられている。 記述は p. 125 では子嚢、子嚢胞子、分生子等の計測値が記されているが、p. 170 では分生子の計測値(25-36 × 5-8 μm.、p. 125 と同一)はあるが、完全世代の計測値はない。 巻末の学名索引には p. 125 の方は挙げられておらず、内容が錯綜している。 日本隱花植物圖鑑(1939、属名は Yoshinagaella と綴られている)等、国内の文献の記述は、基本的には原 (1936) の記述を踏襲している。 最近、Dai et al. (2014) によって Yoshinagella 属の再検討が行われている。 使用されたのは Harvard University, Farlow Herbarium の高知県産1912年8月16日採集の標本 (FH00301624)。 形態的記述は私の観察とほぼ一致するが、不完全世代は "Unknown" とされている。 原 (1936) が Microperella quercus とした不完全世代は、同一子座中にやや先行して生じる。 観察できた分生子は新鮮な資料で観察する限りでは隔壁が認められず、成熟後に隔壁を生じる様子もない。 この特徴は、Höhnel (1909) の記載にある "phragmospor" や、原 (1936) の "紡錘形、4細胞" とは一致しない。 Microperella quercus について、Sutton (1986) は分生子を1隔壁、26.5-31.5 × 5-7.5 μm. とし、Li (2020) も分生子は1隔壁、完全世代は "undetermined" としている。 この点については、再度の確認を期したい。
アラカシの葉の表側に黒色盤状の子座を形成する菌には他に Yoshinagaia quercus がある。 一見、肉眼的には似た外観で、完全世代と不完全世代が同一の子座に若干時期をずらして形成する特徴も似ていて、学名が混乱した。 伊藤は、「日本における樹病学発達の展望(I-II)」 (1965) で、この2種の学名の経緯に触れ、"一度や二度これらの報文 [主に原の一連の報文を指す] を読んでもとうてい理解できないのは筆者の頭が悪いばかりではない様である" (II, p. 106) と少し皮肉交じりに記している。 日本産樹木寄生菌目録 (2007) には、Index Fungorum、Mycobank 共に未登録の Yoshinagella quercus (Höhnel) Hara の学名が収録されている。 原 (1915) が "從來吉永氏が Yoshinagaia quercus P. Henn. と稱せられたるもの" は Microperella quercus Höhnel の完全世代にあたるとして転属させたものだが Yoshinagella japonica そのものである。

[参考文献]
Dai et al. (2014): Towards a natural classification of Dothideomycetes 3: The genera Muellerites, Trematosphaeriopsis, Vizellopsis and Yoshinagella (Dothideomycetes incertae sedis). (Phytotaxa ; 176(1), p. 18-27).
Höhnel (1909): Fragmente zur Mykologie 335. Über Yoshinagaia Quercus P. Henn. (Sitzungsberichte der Mathematisch-Naturwissenschaftliche Klasse der Kaiserlichen Akademie der Wissenschaften ; 118, p. 876-880).
Li et al. (2020): Taxonomy and phylogeny of hyaline-spored coelomycetes. (Fungal diversity ; 100, p. 279-801).
Sutton (1980): The Coelomycetes : fungi imperfecti with pycnidia, acervuli and stroma.
原 (1915): 圓盤菌の寄生に因て起る病害(三). (病虫害雜誌 ; 2(4), p. 24-27).
原 (1936): 日本害菌學.

[初掲載日: 2024.10.10] // [サイトのトップへ] // [掲載種一覧表へ]
All rights reserved. Copyrighted by Masanori Kutsuna, 2024.