末広鉄腸が使用した検印紙「鐡膓著書之證」(明治19年頃)
博文堂の検印紙を調べた際、
博文堂の検印紙とは別に、著者名が記された検印紙が貼付されているものがあることに気が付いた。
末広鉄腸の「雪中梅」(上編. 再版, 1886.11)には、標題紙右下に
「鐡膓著書之證」
と記された検印紙が貼られている。
検印紙は 34 × 34 mm.、版面 30 × 30 mm.、四辺に目打がある。おそらく凹版印刷。
黄色単色、梅とおもわれる花木が周囲に描かれ、中央に "鐡膓著書之證" とある。
右下に径 13.5 mm. の "檢印" 丸印が割印されている。これは博文堂の検印だろう。検印紙の中央付近には径 16 mm. の丸印が押されている。
実物を確認できた鉄腸の検印紙すべてにこの丸印が押されている。後述の復刻版も含め、どれも不鮮明で判読が難しいが、縦長2文字のようだ。
印面右上あたりに "日"、左下あたりに "心" と読めそうな例があるので、おそらく鉄腸の本名 "重恭" ではないかと思う。
同書下編(再版, 1887.2)も、標題紙の右下に、この鉄腸の検印紙が貼られている。
「雪中梅」は日本近代文学館によって1971年に「特選名著復刻全集近代文学館」の中の一点として復刻されていて、
解説によれば定本は編集部所蔵の初版本。この復刻版は、本文だけでなく、装丁や奥付、検印紙なども全て、色も忠実に再現されている。
上巻は明治十九年八月廿七日出版。奥付には博文堂の検印紙は無く、"鐡膓著書之證" の検印紙が貼られていて、
検印紙にはやはり判読不能の丸印、右下に "檢印" の割印がある。
そして、博文堂の検印紙は、裏表紙見返し左上に貼られ、"松村之印" の角印、"検印" の割印がある。
検印紙が奥付ではなく、この場所に貼られている例は珍しい。
下巻は明治十九年十一月三十日出版御届。奥付には博文堂の検印紙、"松村之印" の角印、"検印" の丸印の割印がある。
そして赤地の標題紙には鉄腸の検印紙が貼られている。
このような出版者の検印紙と別に著者の検印紙が貼られている例を他に見た記憶はない。
鉄腸の他の著作も可能な範囲で確認したが、この検印紙が貼られている例は少ないようだ。
初版の上編以降に鉄腸の検印紙の貼付場所が奥付から標題紙に変更された理由はわからない。
博文堂と鉄腸との間で何らかの合意があったのだろうと思う。
[2025.07.20 記]
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