有隣堂は、旧幕臣の穴山篤太郎によって明治7年に創業された書店。現在横浜に本社のある株式会社有隣堂は同名の別会社で、関係はない。
主に農業関係の図書を出版した。余談だが、田山花袋は11歳の頃、有隣堂に丁稚奉公している。「定本花袋全集」 別巻(臨川書店, 1995)の年譜に拠れば、
花袋は1881年2月、 "岡谷繁実の紹介で農業書肆有隣堂(穴山篤太郎店主、京橋区南伝馬町二丁目十三番地)の丁稚小僧となった。" が、
翌年4月頃 "有隣堂で過ちを犯して解雇された。" とある。
有隣堂の出版物で、別デザインの証紙を2種類確認できた。まず一点目。
黑川真頼著 「穴居考」 (博物䕺書) [名前の最初の文字、表示されない環境があるかもしれません。"眞" の[匕]の部分が[十]の字です。]
和綴じ、扉には "博物䕺 | 書 | 黑川真頼著 | 穴居考 | 博物局蔵版 [印]"、枠外上部に "明治十二年一月出版" とある。印は "博物局印" の角印。
また、本文冒頭ページの右上には "版權所有" の表示(おそらく印刷後に押されたもの)がある。
奥付は下記の通り。
内務省博物局蔵版
發兌書林
東亰亰𣘺區 南鍋町壹町目五番地 文會社
同 亰橋區 南傳馬町貮町目十三番地 有隣堂
証紙
は奥付左上部に貼られている。
証紙は 25 × 22.5 mm.、版面 22 × 19.5 mm.、四辺にはルレットがある。おそらく凹版印刷。
えんじ色単色、碁盤目に菱形模様があり、右に "東京書肆"、左に "有隣堂章" とある。
割印は無く、碁盤目に合わせるように数字とカタカナが書かれている。
印刷には見えず、おそらく墨書されたものだろう。"●七一二 リミセ リンセ"(一文字目不詳)と読める。
国会図書館デジタルコレクションで公開されている同書
[1]
には、この証紙は貼られていない。
また、本文冒頭ページの "版權所有" 印は冒頭ではなく、奥付に押されている。
もう一点。
曲直瀬愛、圓城寺權一、島田主善同輯 「明治十年内國勸業博覽會列品譯名」
奥付は下記の通り。
明治十二年十二月印行
内國勸業博覽會事務局藏版
御用御書籍所
東京南傳馬町二丁目拾三番地
有鄰堂 穴山篤太郎 [印]
印は "有隣書屋" の角印。
証紙
は裏表紙見返しの左上に貼られている。
証紙は 25 × 22 mm.、版面 22 × 19.5 mm.、少なくとも右辺と左辺には目打は確認できない。おそらく凹版印刷。
暗橙色単色、碁盤目に菱形模様があり、四隅に "東亰書肆"、右に "有隣堂"、左に "發兌章"、下に "T. Anayama" とある。
割印は無く、これにも碁盤目に合わせるように数字とカタカナが書かれていて、やはり墨書に見え、"三一 トヱテリセ" と読める。
国会図書館デジタルコレクションで公開されている同書
[2]
には、この証紙は貼られていない。
また、奥付には "有隣書屋" 印が無く、"定價九拾錢" の印が押されている。
同じ証紙が明治14年1月出版 「天地鎔造化育論」 の下巻奥付に貼付されているのが、国会図書館デジタルコレクション
[3] で確認できる。
不鮮明だが "三一・ロリン" と書かれているように見える。書きつけられた文字が何を表すのか、多くの使用例を調べれば判るかもしれない。
--- [注] ---
[1].
国立国会図書館デジタルコレクション 「穴居考」. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/771473/1/22]
[2].
国立国会図書館デジタルコレクション 「明治十年内國勸業博覽會列品譯名」. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/801864/1/178]
[3].
国立国会図書館デジタルコレクション 「天地鎔造化育論 下巻」. [リンク先 https://dl.ndl.go.jp/pid/815838/1/38]
最終閲覧確認日は全て 2025.07.20.
[2025.07.25 記]
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